オーストラリアの「ダブル クラウン」の称号を得ているビジネススクールが、次世代の医療リーダー、政策立案者、管理者、アナリスト、エコノミストを育成するために、シンガポールで新しい修士課程を開設した。(2023年4月11日公開)
コストが上昇し、新型の疫病が出現する中で、グローバルな医療部門の管理はますます複雑で困難になってきている。新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、多くの国で医療機関の欠点が露呈し、医療のパフォーマンスとアクセスを向上させるために再設計して系統的に見直す能力とビジネス感覚が必要であることが明らかになった。
戦略的な管理とリーダーシップは、あらゆる組織や部門で極めて重要なものであり、医療も例外ではない。最前線で働くスタッフは医療部門に不可欠な労働力である一方で、質の高い医療を提供するには、政策、ガバナンス、財務、経済および管理に関する専門知識も必要である。しかし、医療部門の労働力は医療の教育を受けているが、実務教育は最小限しか受けていない場合がほとんどである。
オーストラリアのニューカッスル大学(UoN)ニューカッスルビジネススクールの医療経済学教授であるFrancesco Paolucci氏は「医療部門を運営、評価、管理および主導する世界の労働力の70%以上は、正式なビジネスの資格を持っていない」と打ち明ける。
そのうえで彼は「医療をナビゲートし、時代を先取りするには経済、分析、管理、リーダーシップ、財務、ガバナンスなど、複数のビジネス能力が必要である。このような能力は、私たちの現在の問題や課題の理解を深めるのに役立ち、医療システムを近代化し、現代の健康ニーズに対応できるようにするために本当に必要な構造設計の調整を戦略化して実施する力になる」と呼び掛ける。
オーストラリアのニューカッスル大学(UoN)のFrancesco Paolucci教授は、利用しやすく効率的な医療を世界中で提唱している
UoNは、医療のリーダーシップの専門知識に対する医療部門自体の需要の高まりに応えて、2021年に修士課程「医療経済・管理・政策」(The Master of Health Economics, Management and Policy)を開設した。2022年12月7日、UoNの完全所有エンティティであるオーストラリアニューカッスル高等教育機関(Newcastle Australia:Newcastle Australia Institute of Higher Education)はシンガポールで2つのイベントを開催し、このプログラムを開始した。
最初のイベントは、シンガポール国際商工会議所(SICC)が主催し、Paolucci教授が「医療 システムの変革 -- シンガポールにとっての国際的な経験と影響」に関する洞察力に富んだ講演を行った。2つ目のイベントは、医療従事者の持続可能性と生産性に関するハイブリッド セミナーとパネルディスカッションだ。パネリストには、Paolucci教授、Hunter New England Healtの最高経営責任者であるMichael DiRienzo氏、インドの医療提供者協会(Association of Healthcare Providers)の創設者兼会長であるAlexander Thomas博士が参加した。
同修士課程は、医療経済と財務から医療データ分析にまで及ぶさまざまな学習を組み合わせた12の包括的なモジュールから成る。このプログラムは、医療管理とリーダーシップの能力を構築することに重点を置いており、医療法と経済、政策とガバナンス、データ分析、利害関係者とのコミュニケーションおよび意思決定の基礎を学ぶことができる。
「このプログラムの目的は、医療の複雑さを切り抜け、新たなビジネスや社会的課題に取り組む準備ができている多様な能力を持つ労働力を開発および訓練することである」とPaolucci教授。
この独自のプログラムでは、理論的アプローチと現実世界のプロジェクトを組み合わせた学際的なカリキュラムが採用されている。シンガポールではこのプログラムは定時制で提供され、16カ月で修了することができる。
オーストラリアニューカッスル高等教育機関は2022年12月、シンガポールで修士課程「医療経済・管理・政策」を正式に開設した
「分野に関わらず、学士号を取得している学生は、この修士課程に出願する資格がある。学士号を取得していない場合でも、私たちは就労経験を考慮して入学を検討する」と Paolucci 教授。
このプログラムの質は、認証機関や制度によって証明されている。その認証機関・制度にはAssociation to Advance Collegiate Schools of Business(AACSB)、欧州品質改善システム(EQUIS)、Australasian College of Health Service Management(ACHSM)が含まれる。UoNは現在、このプログラムの4回目の認証を受けている最中である。
Paolucci教授は「私たちは、4つの認証を取得した世界で唯一のプログラムになる可能性がある。私たちは、学生がすべての関連コース、トレーニング、機会、セミナー、そしてアジア太平洋地域の大規模な医療機関との交流に優先的にアクセスできるようにする」と説明する。
この修士課程の主な特長は、学生がグローバルな医療リーダーと交流し、学び、つながりを築く機会である。このプログラムの強力な業界とのつながりは、UoNの Paolucci 教授が率いる学者、専門家、研究者の学部横断的かつ多機関のネットワークである、医療経済と政策の価値(VHEP:Value in Health Economics and Policy)グループとの提携に端を発している。
Paolucci 教授によると、このプログラムの主な利点は業界とのつながりと国際的なつながりである。この大学では医療部門やその他の機関との広大なパートナーネットワークに直接アクセスできるため、学生は医療分野で国際的に最高のもの、また地域的に最適なものから学び、知識とキャリアの将来性の両方を高めることができる。
このプログラムは、シンガポールの学生にQS World University Rankings 2023の世界トップ200の大学の1つであるUoNの利点を、海外に行かなくても手頃な価格で得られる機会を提供する。研究助成金は、個人の申請者も利用できる。
さらに、オーストラリアニューカッスル高等教育機関は今後3年間で業界との協力を通じて、12の年間研究助成金を設ける予定であり、パートナー候補も探している。このイニシアチブは、参加組織が従業員のキャリアアップを支援する上で特に有益になるであろう。医療部門はシンガポールで急速に成長している部門であり、国の医療費は年々増加している。医療費は2030年までに、GDP(国内総生産)の9%を占めると推定されている。今回の修士課程「医療経済・管理・政策」の開設は、政府が2022年9月に国の医療制度を改革する複数年計画であるHealthier SGを発表したため、時宜を得ている。
シンガポールが医療部門に重点を置いていることは、この分野でのキャリアの見通しが前向きであることを示している。修士課程の修了者は、規制機関、病院、統合医療機関、医療機器、製薬会社など、さまざまな環境で中級から上級管理職に就けるであろう。