2023年4月13日 JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー 松田侑奈
台湾経済の主柱とも言われる半導体産業を支援するため、王美花経済部長は、世界中から半導体人材を誘致すると宣言した。世界TOP500大学の大学生であれば、職歴がなくても台湾の半導体企業で就職して活躍できるチャンスを与えるということだ。今年、優秀な人材確保のため、アジア各国で数回にわたり大規模な採用イベントを開催するとした。
MediaTekの蔡明介会長は、台湾のIC設計人材の不足問題に何度も言及し、台湾積体電路製造(TSMC)も同様に人材不足が半導体業界の発展において、もっとも懸念される点であると指摘している。産業界の人材不足悩みに対応するため、経済部は海外の人材を台湾に呼び込み、台湾で必要なトレーニングを実施した後、現場に投入させるとの戦略を明かした。
王美花部長は4月2日、メディアインタビューを通じ、「産学連携や人材育成に関する規定を改正し、大学が民間や政府の資金で半導体大学を設立できるように許可する予定である。今までは、半導体企業が外国人人材を採用する際、最低でも2年の経歴を求めていたが、その規定を廃止する。これから世界TOP500大学の大学生らを積極的に採用する。職歴がなくても台湾で働けるよう、必要なサポート体制を組んでいく」とした。
台湾当局は、既に3月27日~31日にかけ、シンガポール国立大学(NUS)、シンガポールの南洋理工大学(NTU)、マレーシアのマラヤ大学(UM)、トゥンクアブドゥルラーマン大学(UTAR)等の6大学で第1回目の説明会を開催したが、大盛況だったという。こちらは、台湾の企業と東南アジアの諸大学の人材をマッチングさせる事業の一環であるが、学生は、台湾留学か直接雇用かを選択できる。4年生向けの説明会にもかかわらず、3年生も多く参加し、来年も開催を希望する学生が多かった。5月末~6月上旬にはフィリピン、9月はベトナムとインドで開催予定である。
ただ、経済部は、今回の海外での説明会を通じ、まだ台湾の半導体業界の凄さが世界に十分にPRできていないことを実感したとコメントした。多くの学生は、TSMCとMediaTek以外の台湾の半導体について理解が乏しく、台湾が半導体の設計・製造・パッケージングでも世界最高であることは知る学生が少なかったという。
外国人人材が台湾に入国した場合、台湾当局は、60~200時間程度のトレーニングを提供してから、現場に送り込むことを想定している。この事業を支える人材育成計画は、今年内に制定するとされる。台湾当局は、外国人人材の積極誘致に伴い、国内でも半導体学院を多く設立して、人材不足の解消に努める予定である。
台湾における半導体産業の重要性は言うまでもない。今まで台湾は、国内の人材育成に大きく頼ってきたが、遂に世界を舞台にその幅を広げている。台湾の半導体産業人材争奪戦への参戦により、半導体産業のグローバル競争はより一層激化すると思われる。シンガポールやインドでは質の高い産業人材を多く育成しており、台湾の狙い通り、アジアの半導体人材が台湾で活躍するようになれば、台湾の半導体産業は更なる進化を果たすかもしれない。これから世界中の半導体人材の行方が注目に値する。