新たにAI卓越センターを設立、アジア・太平洋地域での国際協力に焦点 台湾

2023年4月27日 JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー 松田侑奈

台湾の科学技術政策などを統括する国家科学技術委員会は4月19日、立法院財政委員会に人工知能(AI)関連報告を提出し、近い将来にAI卓越センターを設立する予定と明らかにした。AI卓越センターは既存の研究基盤に、新たな融合研究と主にアジア・太平洋地域での国際協力を視野に入れ、国・地域や研究分野をまたぐ自由な研究の実現を目標としている。

対話型AI「チャットGPT」の爆発的な人気に伴い、台湾では、台湾のAI技術レベルが世界の発展趨勢に比べ遅れているのでは、との懸念が出ている。国家科学技術委員会はAI卓越センター(Taiwan AICoE)が、省庁や研究分野をまたぐ研究ができ、かつ国際協力を実現するプラットフォームとして活用されるように、最大限のサポートをしていきたいと明かした。

AI卓越センターは、科学技術研究、人材、ガバナンスを3大テーマにし、これから台湾のAI分野での強み・弱みを徹底的に分析したうえで、世界各国との共同研究や人材交流を積極的に推進していくとした。

AI卓越センターはまず、大規模のAI協力プラットフォームを立ち上げ、AIの核心技術と関わる各省庁はもちろん、民間の専門家等も参加できるようにし、台湾におけるAI分野での課題や技術問題について、大胆な議論や検討を加えていく予定。

次のステップとしては、AI分野の人材育成であるが、AI卓越センターをアジア・太平洋地域の優秀なAI分野人材が集まる場として定着させ、グローバルな交流と研究を実現する。

最後、AI分野でありがちな倫理問題にも積極的に対応し、AI技術の開発を重視しつつも、人間中心という基本原則を忘れず、国際基準に合致した制度や倫理規定を制定・遵守する。国家科学技術委員会は、既に2019年に「AI科学研究発展指針」を制定しており、それを基盤にAI基本法等をこれから制定するとした。

一方、AIの発展に伴い、AIが人々の仕事を代替するのではないかの懸念について、台湾の専門家たちは、「あなたの仕事はAIではなく、AIを使いこなせる人により代替される」とし、過度な心配は不要という見解を示した。20年前のパソコンの登場と普及、10年前のスマホの登場と普及時も似たような懸念はあったとされる。

台湾に本社をおき、日本で上場を果たしたAIスタートアップ企業Appierの取締役COOの李婉菱(Wan-Ling Lee)氏はインタビューでAIと人材について次のように述べた。

「いくらAI時代と言われていても、最も重要なのは人である。ただ、AI時代に求められる人材像は確かに変わるかもしれない。今まではとある分野で専門知識を持ついわゆる専門人材が活躍した時代だったが、これからは分野・領域をまたぐ融合人材が重用される。技術的に足りない部分はAI等で補完できるので、1つの観点にとらわれることなく、多様な観点からの分析ができ、オープンマインドで仕事ができる人が求められる」

AI卓越センターは、国際協力といっても、アジア・太平洋地域にフォーカスを当てており、目標が明確である。台湾当局では、AI卓越センターを国家級と表現しており、相当な規模が想定される。AI卓越センターがアジア・太平洋地域を代表する大型研究拠点になるかは要注目の部分である。AI時代を迎え、理想とする人材像も変わりつつあり、学科、専攻の分けで授業する従来の教育カリキュラムにも時代に合わせた変化が必要かもしれない。

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