【AsianScientist】樹木の年輪で過去の降雨パターンを推測 パキスタンとアフガニスタン

ヒンドゥークシュ山脈の古い針葉樹から、パキスタンとアフガニスタンにおける洪水と干ばつに関する情報が分かる。(2023年5月8日公開)

2022 年、パキスタンは異常気象に見舞われた。何百万もの人々を食糧不足に追い込んだ深刻な干ばつの後で、国土の3分の1が水没するという前例のない洪水が発生した。 気候学者たちは、そのような出来事はパキスタンのみならず、カブール川流域に隣接するアフガニスタンでも継続するだろうと警告している。

しかし、干ばつや洪水の頻度や程度については、はっきりとは分からない。カブール川流域を潤すカラコルム山脈の氷河には、地球温暖化による氷河量の減少が見られない。 カラコルム異常と呼ばれるこの現象は、この地域の将来の水に関する予測をさらに複雑にしている。しかし、過去を振り返ることで、未来予測の手がかりを得ることは多い。

シンガポール工科デザイン大学 (SUTD)、パキスタンのマラカンド大学、米コロンビア大学、スイス連邦森林・氷雪・景観研究所の研究者らは、過去に気候がこの地域の水の利用可能性に与えた影響について調査し、その結果をGeophysical Research Letters誌に発表した。

この地域の気候データのうち、文書化されたデータは1965年以降のもののみである。研究者たちはさらに遡って調べるために、何百年にもなる針葉樹の年輪を調査した。年輪は、樹木の年齢 (通常は1年に1つの年輪を形成する)を示すものとして知られているが、過去の気候についても目に見える形で記録している。

共著者の1人でコロンビア大学の研究者である フン・TT・グエン (Hung TT Nguyen) 氏は、Asian Scientist Magazine誌とのインタビューで、年輪から降雨パターンを特定する方法を説明した。「年輪は大きさが変わります。雨が多ければ、木の成長は速くなり、その年は年輪が大きく太くなり、雨が少なければ年輪が小さく狭くなります。それぞれの年輪の幅を測れば、その年の降雨量が分かります」

チームは年輪を利用して、過去 400 年近くにわたる盆地の降雨パターンを再構築することができた。400年というのは、それよりも古く健康に問題のない樹木を見つけることはできなかったためである。チームは、20 世紀に入る頃から、カブール川流域の干ばつは深刻さが増し、頻度が増えてきたことを突き止めた。

カブール川流域で起きていることは、そこだけの現象ではない。 世界的に見ると、気温の上昇により水循環が過度にかってきている。地球が暖かくなると大気中の分子の運動エネルギーが大きくなり、距離が離れていくため、より多くの水蒸気を保つことができるようになる。最終的には余分な水分が落下し、さらに激しい雨が降る。その反対に、空気が暖かいと過度な蒸発につながり、干ばつを引き起こす。

その結果、世界中で、乾燥した地域はますます乾燥し、雨の降る地域ではますます降雨量が増える。ただし、地域での干ばつや洪水の深刻度は、その地域の地形や空気中の水分の循環などの要因によって異なってくる。研究チームは、カブール川流域では乾燥した年は乾燥の程度が高くなるが、雨の多い年の場合は湿度が高くなるわけではないことを指摘した.

さらに、この現象を複雑にしているのは、干ばつの中でも雨期の期間が増加していることである。このことは、地域内での人の活動の活発化と相まって、気候が引き起こす水不足を緩和することの難しさと必要性を強調している。

この研究によって、地域の水資源を管理する潜在的な方法も分かってきた。パキスタンとアフガニスタンで話し合う際には、過去の気候データを考慮する必要がある。現在、両国は、主に河川の水位を毎年記録する調査に依存している。

グエン氏は、調査の期間が比較的短かったため、水共有協定を誤った方向に導く可能性があると警告する。 「短期間に測定し、それがたまたま雨季である場合は、水を過剰に割り当てるかもしれません。 常に長期的な変化に気をつける必要があります。 年輪はそのようなデータを提供してくれます」とグエン氏は付け加えた。

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