【AsianScientist】感染症研究やシロナガスクジラの調査...アジアの女性研究者を紹介

今年の国際女性デーを記念して、障壁を打ち破りそれぞれの分野を率いるアジアの5人の女性科学者にインタビューした。5人は、若い女性科学者たちに対してメッセージを送った。(2023年5月9日公開)

最新の感染症研究からシロナガスクジラの調査、廃棄物の利用からきれいな水の市民への供給まで、アジアの女性科学者たちは専門分野の最前線で活躍を続けている。それと同時に、彼女たちは資金不足、差別、時代遅れの社会規範などの問題も克服している。

国際女性デー(3月8日)を記念して、 Asian Scientist Magazine誌は、アジアの多くの若い研究者、特に女性にインスピレーションを与えている 5 人の素晴らしい女性科学者を紹介する。

エイズを終わらせるために闘うアディーバ・カマルルザマン (Adeeba Kamarulzaman) 教授

写真提供:マレーシア大学

マレーシアのマラヤ大学の アディーバ・カマルルザマン (Adeeba Kamarulzaman) 教授は、HIV および AIDS に関する研究と反応の分野で高く評価されている感染症の専門家である。教授は東南アジアや他の地域の脆弱なコミュニティを守るために人生を捧げてきた。

アディーバ教授は、疎外された人々が直面する差別との闘いの中で、薬物使用者を犯罪者とするのではなく、まずは治療と支援を提供するという公衆衛生アプローチを提唱してきた。アディーバ教授は マレーシアでHIVやAIDSなどといった感染症の蔓延を緩和する努力を続け、権威ある 2022 年医療科学技術ムルデカアワードを受賞した。

アディーバ教授はマレーシアの薬物政策改革に影響を与えたことから、2022年にマレーシア人として初めて薬物政策国際委員会のコミッショナーに任命された。

アディーバ教授は今年の国際女性デーで、若い女性科学者たちに、忍耐力と勇気をもちつつ情熱を追求してほしいと言い、「フィル・スタッツ ( Phil Stutz) 博士が話したように、人生は『真珠の首飾り』なのです。たとえ不完全なものでも、それぞれの動きがあなたを前進させます」と語った。

医療制度を再考させるガガンディープ・カン (Gagandeep Kang) 教授

写真提供:キリスト教医科大学(ヴェロール)消化器科学科、ウェルカムトラスト研究所

インドのヴェロールに所在するキリスト教医科大学のガガンディープ・カン教授は、公衆衛生の提唱者である。腸管感染症とワクチンに関する包括的な研究を行い、低・中所得国の子供の健康を改善する上で極めて重要な役割を果たしてきた。

カン教授は、感染症管理をさらに改善し、インドにおける健康の不平等に対処するために、学生や若い教職員向きの有益な研修プログラムを確立した。カン教授は、ロンドン王立協会のフェローに選出された最初のインド人女性として歴史を作った。王立協会は現存する最古の科学団体であり、カン教授はチャールズ ダーウィンやアイザック ニュートンなどの著名な科学者の仲間になったのである。

カン教授は、科学分野の女性は、自分自身や職場だけでなく、家族や社会からの期待も背負っていることが多いとScientist Magazine誌に語った。

「他人を優先して自分自身をないがしろにしないで欲しいと思います。これは難しいお願いかもしれませんが、女性科学者が生き残り、成功するためには大切なことです」とカン教授。

シロナガスクジラの守護者であるアシャ・デ・ボス (Asha de Vos) 博士

写真提供:スハダ・アズミ (Suhada Azmy) 氏

海洋生物学者であり、海洋教育者でもあるアシャ・デ・ボス (Asha de Vos) 博士は、スリランカ固有の非移動性シロナガスクジラの謎を解き明かすことに没頭している。

海洋哺乳類保護の分野で博士号を取得した最初のスリランカ人であり、また、スリランカ初のナショナルジオグラフィックの特派員でもあるデ・ボス博士は、科学研究の多様性、公平性、包括性を推し進める。TED フェローであるデ・ボス博士は、地域社会がそこの海岸線を守ることができるよう、海洋保護と教育を行う組織である Oceanswell を設立した。

現在、デ・ボス博士は、スリランカの南海岸沖のあちらこちらで現地調査を行っている。博士は、若い女性科学者に対し、性別ではなく能力によって認められるよう努力して欲しいと述べている。

「しかし、女性からどう見られるかを分からせることで、男性に力を与えることはできます。その時には性別を利用できます」と デ・ボス博士は言う。

シンガポールの浄水戦士であるロン・ワン (Rong Wang) 氏

写真提供:ロン・ワン氏

シンガポールは海に囲まれているため、住民にきれいな水を供給するためには脱塩プラントが重要である。 シンガポール・メンブレン・テクノロジー・センター (SMTC) のディレクターである ロン・ワン(Rong Wang) 氏は、この取り組みに関わってきた。彼女はこの分野に多くの貢献をしてきたが、その中でも、水再生の中でエネルギー消費を抑える膜技術を発展させてきた。

ワン氏の業績は、2022 年の大統領科学技術賞や、2016 年のサウジアラビアからのスルタン・ビン・アブドゥルアズィーズ皇太子国際水賞 (PSIPW) の「代替水資源賞」などの受賞により、名誉ある賞賛を受けてきた。

ワン氏はSMTCで多くの女性研究者や博士号課程の学生を指導し続けてきた。ワン氏はAsian Scientist Magazine誌に対し、女性が自分自身を制限しない限り、男性と同じように STEM 分野で優れた能力を発揮できると語った。

ワン氏は「自分自身を信じるのです。恐れてはいけません。特に新しい研究分野のパイオニアであれば、自信を持って先頭に立ち進んでください」と話した。

廃棄物を持続可能なソリューションに変えるフン・キム・リー (Phung Kim Le) 准教授

写真提供:フン・アン・タム・リー (Phung Anh Tam Le) 氏

ベトナムのホーチミン市工科大学のフン・キム・リー (Phung Kim Le) 准教授は、廃棄物というものは存在しないと主張する。フン准教授は、同大学を卒業後、ベトナムの豊富なバイオマスを利用してバイオ燃料とバイオ材料を生産する研究を率先して行ってきた。

フン准教授のグリーン技術は、革新的で費用対効果が高く、農産物廃棄物を廃水処理に使用される高性能セルロースエアロゲルに変換する。 フン准教授の研究は、2022 年の日立財団ベスト イノベーション アワードを受賞した。これにより、准教授は研究を産業規模で取り組むことができるようになった。

フン准教授は環境問題や気候変動との闘いに駆り立てられており、地元の廃棄物の価値に関する意識を高め、人々にその可能性を利用させたいと望んでいる。「差し迫った社会問題を解決する研究をするならば、決して時代遅れになってはいけません」と フン准教授は述べる。

上へ戻る