研究者たちは、アデノ ウイルスの変異の監視とワクチンの開発を勧告する。(2023年5月25日公開)
インド東部の西ベンガル州でアデノウイルス感染症が発生した。今年1月から3月の間に感染した子供の数は12,000人以上になる。この発生は、規模と重症度の点で前例のないものであった。
ムンバイ、プネー、バンガロール、ジャイプールなどの他の都市でもアデノウイルス感染症の症例が報告されたが、西ベンガル州の状況はひどかった。政府の統計によると、死亡者数は 19人である。だが小児科医は、アデノウイルス感染症だけでなく関連する合併症も含めれば、死亡した子供は150人以上であると明かす。
コルカタの国立コレラ腸疾患研究所 (NICED) は、ウイルスの血清型を確認するために、感染した子供から収集されたアデノウイルスの遺伝子構成を分析した。血清型を調べれば、存在する表面抗原の種類に基づきウイルスのグループについてわかる。細菌が付着し、宿主細胞に侵入し、宿主の免疫防御機構から回避するのは表面抗原のなせる技である。血清型分析から、血清型3型と7型、および組換え株 7/3(3型と7型の遺伝物質を組み合わせて作られた株)のほとんどは、西ベンガル州で見つかったことが分かった。
小児科医であるアウルバ・ゴーシュ (Apurba Ghosh) 医師はAsian Scientist Magazine誌に対し、アデノウイルスの流行は以前に西ベンガル州で発生したことがあるが、今年は重度のものであり、流行の規模は前例のないものであると語った。彼は、肺が完全に発達していない2歳までの子供は特に脆弱であると付け加えた。
年長の子供や若年成人の場合、この感染症は上気道に限って見られる。しかし、生後3カ月から2歳までの子供の場合、下気道にまで広がり、アデノウイルス性肺炎を引き起こすことがある。
コルカタに所在する小児健康研究所の小児科の准教授であり小児集中治療室責任者であるプラバース・プラスン・ギリ (Prabhas Prasun Giri) 氏は、アデノウイルス性肺炎は肺に深刻な影響を与え、免疫力を低下させ、そのため、2次細菌感染や細菌性敗血症の可能性を高めると述べた。
本記事のインタビューを受けた医師たちは、パンデミック中に生まれた赤ちゃんは消毒済環境での生活に慣れており、一般感染症に対する免疫を獲得していないと述べた。この「免疫ギャップ」も、感染症の重症化の一因となっている。
ウイルスは主に2歳未満の子供に影響を与えたが、アデノウイルス感染で命を落とした10代の少女もいる。この少女が入院したPeerless Hospital & B K Roy Research Centerの臨床部長であるサブロジョティ・ボーミック (Subhrojyoti Bhowmick) 氏は、少女は呼吸筋を弱める脊椎筋萎縮症を患っていたと話した。その後、「アデノウイルスの感染で彼女の呼吸筋はさらに弱くなり、通常の機能を実行できなくなった」と述べた。
アジアでは、中国、台湾、シンガポール、マレーシアでもアデノウイルスの大規模流行が発生している。 さらに、世界保健機関 (WHO) によると、検査された肝炎症例でアデノウイルスは常に最も多く検出される病原体であるため、昨年の世界的なウイルス性肝炎の発生の原因はアデノウイルスであると考えられている。
WHOはさらに、ほとんどの国でアデノウイルスの監視は限られているため、アデノウイルス感染を伴う肝炎の発生率が予想よりも高いかどうかを評価することは困難であると述べた。
2012年11月から2013年7月にかけて、シンガポールでは子供たちのアデノウイルス7型 (Ad7) 感染が著しく増加した。2012年11月、シンガポールのKK母子医療センターは、アデノウイルス7型の最初の確定症例を報告した。小児科入院患者は2012年1月から7月にかけて32名、2013年1月から7月にかけて200名増加した。
この突然発生した深刻な問題を理解するために、主にシンガポールで多くの調査が実施された。デューク-シンガポール国立大学医科大学(Duke-NUS Medical School)の研究者たちはアデノウイルス株の最初の大規模な研究を行い、主に小児患者から採取した500以上の臨床サンプルを調べた。小児集団の他の系統と比較して、4型と7型が増加していることが分かった。
論文著者たちはこの調査の結果に基づき、シンガポールの公衆衛生当局と臨床医は抗ウイルス療法とアデノウイルスワクチンを検討すべきと述べた。また、重篤な疾患リスクを持つ患者を特定するために、臨床HAdV遺伝子型の体系的な研究を行うことを勧告した。
ギリ氏は、アデノウイルスワクチンの開発を真剣に検討すべきと話した。彼は、Ad7に感染した子供たちの多くは感染症の再発と感染後閉塞性細気管⽀炎 (POBO)のために入退院を繰り返すと指摘した。感染後閉塞性細気管⽀炎とは重篤で長期にわたる呼吸器疾患であり、予後が悪く、子供たちの生活の質に悪影響を与える。しかし、PIBOのリスク因子に関する研究は限られている。