G7仙台科学技術大臣会合-国際科学技術協力の推進に向けた議長国日本の取り組み(上)

2023年6月6日

樋口義広(ひぐち・よしひろ):
科学技術振興機構(JST)参事役(国際戦略担当)

1987年外務省入省、フランス国立行政学院(ENA)留学。本省にてOECD、国連、APEC、大洋州、EU等を担当、アフリカ第一課長、貿易審査課長(経済産業省)。海外ではOECD代表部、エジプト大使館、ユネスコ本部事務局、カンボジア大使館、フランス大使館(次席公使)に在勤。2020年1月から駐マダガスカル特命全権大使(コモロ連合兼轄)。2022年10月から現職。

G7広島サミット(5月19-21日)に先立つ数週間、日本各地でG7関係閣僚会合が次々と開催された。サミット終了後も年内にさらに6つの大臣会合が開催される。5月12-14日に仙台で開催されたG7科学技術大臣会合もそうしたG7閣僚会合の1つである。

G7での国際科学技術協力を重視する日本

G7関係閣僚会合は、外相会合や財務・中央銀行総裁会合等、基本的に毎年開催されているものと、その年の議長国の裁量で開催が決められるものとがある。1975年にまで遡る先進国首脳会議(いわゆる「サミット」)の歴史において、G7の科学技術大臣会合が初めて開催されたのは、日本が洞爺湖・北海道サミットの議長国を務めた2008年の沖縄会合であった。当時はロシアを含むG8の時代であったが1、岸田文雄科学技術政策担当大臣(当時)が沖縄会合の議長を務めた。

その後の15年間で、G7(G8)科学技術大臣会合は今回の仙台会合を含めて9回開催されているが、2015年のG7茨城・つくば会合を含め、日本がサミット議長国を務めた年には、毎回、科学技術大臣会合が開催されている。日本がG7における主要テーマの1つとして科学技術を重視していることの証左と見てよいだろう。

日本で3回目のG7科技大臣会合

G7仙台科学技術大臣会合は、高市早苗内閣府特命担当大臣(科学技術政策)が議長を務め、G7各国及びEUから閣僚級またはその代理が出席した。報道映像等で気づいた方もいたのではないかと思うが、出席者8名のうち、高市大臣を含めて7名が女性であったことは新鮮な驚きであった2

出席者8名のうち、高市大臣を含めて7名が女性だった
(提供:内閣府)

G7仙台科学技術大臣会合
(提供:内閣府)

仙台大臣会合は、「信頼に基づく、オープンで発展性のある研究エコシステムの実現」をメインテーマに、3つの主要議題(「科学研究の自由と包摂性の尊重及びオープン・サイエンスの推進」、「研究セキュリティとインテグリティの対策による信頼ある科学研究の促進」、「地球規模課題解決に向けた科学技術国際協力」)に沿って議論が行われた。大臣会合終了後に成果文書として発出された「共同声明」と「附属文書(各ワーキング・グルーブ等の活動報告)」も基本的にこの議題構成に沿ったものとなっている。仙台大臣会合の概要と成果文書一式は、内閣府HPに掲載されている3

成果文書は、大臣会合に先立つ約半年前のタイミングで、議長国日本から議論のたたき台となるドラフトを他のメンバーに提示し、SOM(高級実務者会合)や電子メール等のやりとりを通じて調整を図りながら最終版に仕上げられた。通常、各国からの提案やコメント等を盛り込んでいく過程で文書の分量も増えていく。実際、今回についても最終文書は初稿と比較してその分量は著しく増えたという。調整プロセスにおいて各国間で必ずしも意見の一致が得られない論点も出てくるが、その場合、コンセンサス(すべての参加国の同意)が得られない論点は文書から落ちていくことになる。様々な論点についてできるだけコンセンサス・ベースで合意が得られるように調整を図ることが議長国の役割であり、また腕の見せ所でもある。今回は、成果文書の文言調整が大臣会合本番にまで持ち越されることはなく、共同声明は会合終了時に速やかに公表された。

かなりの分量にわたる成果文書からだけでは、大臣会合のポイントを把握することは必ずしも容易ではない。本稿では、内閣府の科学技術・イノベーション推進事務局で仙台会合の準備と開催を直接担当した有賀理(あるがおさむ)参事官(国際担当)から成果文書の要点等を中心に聴取した内容も踏まえつつ、仙台大臣会合のポイントを読み解いてみたい。

オープン・サイエンスの推進

1つ目の主要議題であるオープン・サイエンスの推進は、科学技術研究に関する国際的な議論の大きな方向性になっている重要テーマの1つである。G7科技大臣会合プロセスでこのテーマが最初に取り上げられ、ワーキンググループ(WG)の設置が決まったのは、日本が前回G7議長国を務めた2016年の茨城・つくば大臣会合であった。現在、日本はEUと共にこのWGの共同議長を務めている。

共同声明では、まず、開放性、自由、包摂性や学問の自由、研究のインテグリティ、プライバシー・知財の保護といった諸原則に言及しつつ、研究成果の公平な普及によってオープン・サイエンスを拡大するために協力することが謳われている。

より具体的な論点としては、研究成果及び研究データに対してよりコストがかからない自由なアクセスをどのように拡大していくかという問題がある。よりオープンなアクセスを目指すという方向性についてG7で一致しており(「G7は、公的資金による学術出版物及び科学データへの即時のオープンで公共的なアクセスを支持し、適切な科学的成果のより広範な共有のための学術出版における課題に対処する科学会の努力を支持する」(共同声明))、各国それぞれの事情(国際的に著名な学術誌を出版している等)や制度的な違い等を踏まえ、「即時のオープンで公共的なアクセス」の実現に向けた具体策についてG7各国で検討を進めている。

日本でも、こうしたオープン・アクセス(OA)に向けた国際的動向も踏まえ、具体的な対応について検討が行われている。学術研究成果の公表について、将来的には、大学等の機関リポジトリ―で筆者最終稿(学術誌で正式に公表される前の最終稿)を公開する、いわゆる「グリーンOA」を進める他、研究者への支援を行う方向で検討が行われており、今後、統合イノベーション戦略2023や国レベルのオープンアクセス方針において制度設計の具体化が行われる予定である4

科学コミュニケーションの重要性

オープン・サイエンスと関連するテーマとして、共同声明では、科学研究や科学政策の信頼性を高めるために、責任ある効果的な科学コミュニケーションの重要性が謳われた。この点については、すでに昨年のG7フランクフルト科学大臣会合のコミュニケで、「効果的で責任ある科学コミュニケーションは、信頼できるエビデンスに基づいた社会的、政策的決定を可能にするために不可欠だ。さらに、国民の信頼を確保し、科学に関する偽情報、情報操作、科学の悪用に対抗することも重要だ。偽情報は一部の社会で憂慮すべき科学や科学者への不信を引き起こしている。そのため、我々は効果的な科学コミュニケーションについて G7パートナー間の協力を強化するためのワーキング・グループを模索することを決定した。焦点となるのは、エビデンス情報に基づいた科学コミュニケーション慣行の開発と科学リテラシーの向上を推進することである。そこには、科学コミュニケーション、科学の否定、情報操作、偽情報に関する国際的研究から得られた知識を科学コミュニケーションの慣行へ移転することの強化も含まれる。」と述べており、G7の問題意識が端的に示されている。今回の仙台会合では、この新たなWGを立ち上げることが正式に合意され、今後、独がこのグループでの作業をリードしていく見込みである。エビデンス・ベースの科学コミュニケーションと科学リテラシーの向上は、いわゆる「ポスト・トゥルース(post-truth)」の時代を生きる我々にとって益々重要な課題となっている。

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