【AsianScientist】ヒトゲノムプロジェクト完了から20年、次に来るものは?

ヒトゲノム プロジェクトの完了から20年が過ぎた。ゲノム技術やシーケンシング技術は、効率性、利用性、包括性を押し広げようとさらに前進している。(2023年6月26日公開)

20年前、国際科学者チームが、ヒトゲノムの90% 以上の完全な配列を作成し、歴史にその名を刻んだ。 1990年に開始されたヒトゲノム プロジェクト (HGP) は、ゲノムシーケンシング技術の限界を押し広げ、研究者に人間の構成要素の「地図」を提供することを目的としていた。

6つの国から20の大学と研究機関が参加し、ヒトゲノム全体のシーケンス決定に関与した。参加した大学や機関は国際ヒトゲノムシーケンス決定コンソーシアムという総称名で知られていた。

HGPの参加者の一人であるラドジェ・ドーマナク(Radoje Drmanac) 博士は「HGPの基本はゲノム部分のリストを作成することでした。当時、私たちはそれらのほとんどを理解していませんでしたが、それでもリストがあったことはあったのです」と話す。

Complete Genomics社の共同設立者であるドーマナク博士は現在、世界的ライフサイエンス企業であるMGI社の最高科学責任者である。「そのため、もっと多くのゲノムのシーケンス決定をすべきという重要な要求が起こりました。参照ができたため、ショートリードが利用しやすくなりました。これにより、ゲノム配列に基づき捕捉用プローブおよびプライマーを使用したエクソーム解析とパネルシーケンスが可能になりました。生物学も、人類を月に送るような大規模なプロジェクトを行えるようになったことを証明したのです」

ドーマナク博士は、当初からプロジェクトに関与していた。1987年にセルビアで米国エネルギー省から助成金を受け、1991年にセルビアから米国に移住した。彼は、ハイブリダイゼーションによる DNA シーケンス決定をさらに進める任務を受けていた。ハイブリダイゼーションを利用すれば、ハイスループットシーケンス決定は効率的なものになる。ドーマナク博士はAsian Scientist Magazine誌に対し、プロジェクトの完了から20年が過ぎ、その間に業界と技術の変化について話した。

大規模なシーケンシング

最初にヒトゲノムのシーケンシングを行ったとき、その過程全体の費用は約27億ドルだった。この成果は紛れもなく画期的なものであるが、やるべきことは常にある。 当時のゲノム技術者の目標は、コストを削減し、世界中の医療システムや研究者が技術を利用できるようにするために、より効果的なシーケンシングを見つけることだった。

ドーマナク博士はHGPのシーケンシング技術の改善に取り組む一方で、超並列シーケンシング (MPS) (またの名を次世代シーケンシング (NGS))も提案した。これは最新のシーケンシングであり、エマルジョン・ポリメラーゼ連鎖反応 (PCR) を使いマイクロビーズの上に作成したDNAマイクロアレイを使用する。

2005年、ドーマナク博士とそのチームはComplete Genomics社で、DNAナノボールが高密度かつ完全に搭載されたパターン化アレイを発明した。これにより、MPSの効率と規模を最大とすることができる。この技術はDNBSEQ™として特許を取得し、現在、MGIのすべてのシーケンサーで使用されている。2010年、Complete Genomics社は大きな節目を迎え、DNBSEQ™を使用して全ゲノム解析を達成した最初の企業となったが、その費用はわずか5,000ドルであった。この成果は、日常的で手頃な価格で正確な全ゲノムシーケンスが可能であることを業界に知らしめた。

ドーマナク博士は「DNBSEQ™ シーケンシングアレイにはクローンエラーやインデックスホッピングがなく、通常のDNAアレイよりも高いシグナル密度を生成するため、検出精度が大幅に向上します」と説明した。「精度の向上、重複の減少、インデックスの誤割り当ての減少などがメリットです」

ゲノムに裏付けられた公衆衛生を目指す

ラドジェ・ドーマナク博士は全ゲノムシーケンシングの効率性を高め、利用しやすくするためにComplete Genomics社とMGI社で最高化学責任者として研究をリードしている

Complete Genomics 社が MGI社に併合された後も、ドーマナク博士はチームを率いてDNBSEQ™ 機能の強化を続けている。 特に、彼は 2016年に CoolMPS シーケンシングケミストリーを開発した。この技術は、独自のケミストリーにより、非標識ヌクレオチドと4つの蛍光標識抗体をシーケンシングプロセスに導入し、組み込まれた塩基を認識することで、従来のシーケンス手法では蓄積して精度に影響するDNAの「傷跡」を避けることができる。傷跡のない塩基をシーケンシングサイクルごとに追加することで、ゲノムのロングリードの正確性が増し、シーケンシングコストが低減される。

独自のケミストリーを MGI の最新技術である DNBSEQ-T20x2RS*と組み合わせることで、MGI は新たな節目を迎えた。ゲノムあたり 100ドル未満で年間最大 50,000ゲノムまで、全ゲノムシーケンシングを行える。ドーマナク博士は今後も、より手頃な価格で利用しやすいシーケンシングに取り組み続ける。

「今年、MGIは7周年を迎えます。この節目において、MGI が、DNBSEQ™ を使い10米ドルでゲノムシーケンシングを行える最初の企業になることを願っています」と博士は語った。「この価格下落傾向は、誰でも日常的にゲノムシーケンシングが可能であり、個人のゲノム検査に大きな価値があることを示すものです」

シーケンシングのコストが下がり続けるにつれて、公衆衛生システムがこの技術を活用する可能性は高まる。各国がプレシジョン・メディシンの促進に取り組む中、多くの政府が各地域特有のDNAの違いを考慮した全国民対象のシーケンシング・プログラムに資金を提供するようになってきた。現在、MGI はタイ、インドネシア、ブラジルの国家ゲノム プロジェクトに参加しており、現地の人々の理解を深めている。このようなプロジェクトは、がん、感染症、希少疾患および未診断疾患、非感染性疾患、薬理ゲノム疾患の分野で疾患予防、個別化診断、薬物選択および治療で行われる分子医学モニタリングを開発する基礎として役に立つ。

「最初のゲノム シーケンスの応用から、MGI社とComplete Genomics社がシーケンシングした個人のゲノムから病気の原因となる変異を初めて発見したことまで、遺伝子シーケンシングは私たちの生活のあらゆる面に影響を与えるため、素晴らしい結果をもたらすと信じています」ドーマナク博士は語った。

*別段の通知がない限り、StandardMPSシーケンシング試薬およびCoolMPSシーケンシング試薬、およびこれらの試薬で使用するシーケンサーは、ドイツ、スペイン、英国、スウェーデン、イタリア、チェコ共和国、スイス、および香港では利用不可である(CoolMPSは香港で利用可能)。

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