【AsianScientist】温暖化がアジアの給水塔を危険にさらす恐れ

気候シミュレーションを行ったところ、アジア高山地域の氷河と積雪が融解し、最大級の水源の存続が危うくなり、急速に人口が増加するアジアで水の安全保障が脅かされるという予測が出た。(2023年6月30日公開)

アジア高山地帯(High Mountain Asia:HMA) はチベット高原を取り囲む広大な山脈である。そこからは氷河と冬に積もった雪から溶けた水が流れ出て世界最大の淡水貯留層の一つを形成し、20億人以上の人々の生活を支えている。 米国の研究者チームは、気温上昇と気候変動により、この貴重な水源の存続が難しくなりつつあり、下流地域社会と生物多様性は深刻なリスクにさらされていると警告した。この調査結果はNature誌に発表された。

HMA は氷河と積雪の貯蔵地域であり、極地以外では最大となる。ここの山々は、大陸の主要な河川流域に淡水を継続的に供給し、「アジアの給水塔」として知られている。 過去数十年、気候温暖化と変化する気象パターンにより氷河はどんどんと消滅していき、多くのアジア諸国における水の可用性はかつてないほど低下した。HMA の水系には変化がみられるという報告がいくつもあるものの、これらの変化の背後にある根本的な大気メカニズムについてはほとんどわかっていない。

ミシガン州立大学工学部のヤドゥ・ポクレル (Yadu Pokhrel) 助教授が率いる研究チームの報告によると、水の可用性に関するこれらの変化は、北大西洋とアジア諸国の主要な水源であるインド洋の温暖化に関係している可能性がある。

「これは世界的な現象です」とポクレル助教授は語る。 「海洋で起きている温暖化により、世界各地で水分の発生や流れが変わり、それがアジアの給水塔に直接影響します」

ポクレル助教授とそのチームは、地球上の水分の発生、移動、および到達地点を追跡する粒子分散モデルならびに衛星観測に基づく2つの異なる放出シナリオを利用した気候モデルを使用した。そして、今世紀末までにチベット高原の84%から97%という広範囲で水不足が発生するであろうと発表した。

さらに、チームは、2009年以来、貯水不足が北に広がっていることも発見した。気温が上昇し、水分が低下したため雪と氷河が減少し、そのため、かつてはチベット高原中央地域の水源の枯渇を防いでいたHMAの高地地帯の遮断効果が弱まった可能性があるという理論を立てた。

「これは重要です。この地域の水分に何らかの変化があれば、その変化がどの程度のものであれ、近隣諸国の何百万もの人々の経済と生活に影響を与えるからです」とポクレル助教授は述べた。「これは世界的に大きな影響を与える可能性があります」

気候変動の連鎖的な影響が明らかになるにつれて、このユニークな地域の複雑な動態を理解し、急速に増加するアジアの人口の幸福を確保するために水資源を管理することもますます重要になってきている。ポクレル助教授とそのチームは、これらの気候モデルが示す将来の影響に備えるために必要となる直接的な政策変更を特定しようとしている。

「私たちは、気候変動の包括的な影響が何か、地域社会への影響をもっと理解する方法、そして将来に向けた適応戦略を開発する方法を知りたいのです」

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