【AsianScientist】HPCがデジタル学習を可能にする5つの方法

没入型インタラクションという新しい学習方法が教育現場に参入しつつある。高性能コンピューティング (HPC) の最前線において、アジア全土の教育はデジタル変革を遂げている最中である。(2023年10月17日公開)

オンラインコンテンツの流れは終わることはなく、ソーシャルメディアには何千もの投稿があふれる。今日の社会はこれらが組み合わされ、かつてないデジタル社会となっている。しかし、私たちはエンターテイメントやソーシャルメディアだけにテクノロジーを使用しているのではない。デジタルコンテンツはテクノロジーに精通した新しい世代にとって魅力的なものであり、デジタル学習という新しい形式の教育に導入され、活用されつつある。

デジタル学習を実現させるのは高性能コンピューティング (HPC) の膨大なデータ処理能力と超高速速度であり、学習では教育テクノロジー (EdTech) アプリケーション、オンライン学習プラットフォーム、仮想現実、人工知能 (AI) による仮想教師といった最新のイノベーションが採用される。教育は新たな領域に入りつつあり、生徒は高度にパーソナライズされた魅力的な学習を体験できる。

① ビデオストーリーを使う教育

最近のTikTokは話題のダンス動画からデジタルストーリーまで、あらゆる人々の注目を集めている。このプラットフォームの主なユーザーであるZ世代は、アプリをいともたやすく操作して映像をつなぎ合わせ、テキスト、画像、オーディオ、音楽を生成して、ストーリーに命を吹き込む。

デジタルストーリーテリング (DST) という形式は新世代の共感を呼ぶので、教室に適用して学習を促進する可能性がある。DSTは親しみやすく魅力的なコンテンツ配信形式であり、生徒がコンテンツを作成できるようにすれば、実践的な学習プロセスを作ることができる。

ストーリーテリングを使う学習方法は人類の起源から存在していた。DSTはその進化の最新型でありるが、AIを使うビデオ編集とクラウドサーバーを強化するためにはHPCが欠かせない。

たとえば、2016年のことだが、SFスリラー映画『モーガン』の予告編はIBM Watsonスーパーコンピュータを使用して初めてAIを使い編集された。この作業は通常は数週間かかるところだが、わずか24時間に短縮された。一般人はスーパーコンピューターに直接アクセスできないが、最新のスマホの処理速度は11-16テラFLOPSであることを考えると、現在利用可能なほとんどのAIビデオ編集モバイルアプリを動作させるのに十分である。

インドネシアのシャリフ・ヒダヤトゥラーイスラム宗教国立大学ジャカルタの研究チームは、AIビデオ編集アプリのアクセシビリティを活用してDSTを作り、地元で外国語としての英語 (EFL) を学ぶ7年生の生徒の口頭英語学習に利用した。チームの研究はIEEE Xplore誌に掲載された。この研究は、人物説明の方法(自分自身や家族について語るなど)を生徒に教えながら、DSTと従来のストーリーテリングの効果を比較した。

教師はDSTビデオを教育補助教材として使用し、生徒は自作のビデオを基にしてストーリーの形を変えて語る練習をした。チームは、DSTビデオを使用すると標準的な教育方法と比較して生徒のスピーキング能力が大幅に向上することを発見した。さらに、生徒たちはビデオを編集する際に独自の技巧を取り入れたことから、DSTは創造性を育み、デジタルリテラシーと言語リテラシーの両方を促進する総合的な教育ツールであることが証明された。

② 手術の成功をシミュレーション

医療機器がビーッという音を出し続け、病院のインターホンシステムが鳴り響く中であっても、外科医は腹部の小さな切開部から腹腔鏡カメラの細管を巧みに挿入する。この技は、熟練した精神運動技能を必要とする。仮想現実腹腔鏡シミュレーター (VRLS) を使用すると、外科研修生は再現された手術室 (OR) を体験できる。

仮想現実 (VR) 手術シミュレーションのアイデアが初めて提案されたのは1990年代である。それ以来、コンピューティング能力の急速な進歩により、現実に近いVRとその医療応用が可能になった。最先端の画像処理装置は毎秒90フレーム以上という高いフレームレートを常に維持し、現実的なVR体験のリアルタイムレンダリングを可能にする。

現在、腹腔鏡手術のトレーニングでは、まず経験豊富な外科医を観察し、補助することから始め、その後、監督下で手技のみを行う。これは広範囲にわたる監視が必要である。しかし、研修医はより多くの時間を使い、練習し、手技に慣れるのが理想である。したがって、VRLSで繰り返し練習することは、患者の合併症を回避しつつ研修医がスキルを磨くことができるので、効率的かつ費用対効果の高い方法となる。

マレーシア国立大学外科学部は、大学院生が険しい学習曲線を乗り越えられるよう、VRLSトレーニングプログラムを開発した。学生たちは LAP MentorTM VRLS システムを使用して、手技全体を実行する前に基本的な腹腔鏡手術スキルとプロセスを練習した。

学生たちは手術器具を扱う際に触覚フィードバックを受け取り、ストレスの多い手術室環境のシミュレーションを視覚的に学習した。各練習セッションの後、VRLSはパフォーマンスレポートを生成して生徒が進捗状況を追跡できるようにした。時間の経過とともに、学生のVRLSの扱いは素早くなり、精度は高まった。

同大学の外科医であるイアン・チック (Ian Chik) 博士は実際の手術室で手術器具を扱う際に生徒たちが上達していることに気が付いた。これは重要なことである。チック博士は、シミュレーターは高額ではあるが、その価値のある投資であると考えている。チック博士はSupercomputing Asia誌とのインタビューで「患者ケアの改善はコストをはるかに上回ります」と述べた。

③ 仮想現実で共感を学ぶ

健康を多面的に捉えることは、患者中心の質の高いケアを提供する鍵となる。VRシミュレーションは、中核となる医療能力を開発するだけでなく、医療従事者が患者に対する共感や思いやりを育むのにも役立つ。安全を確保しつつ複雑な行動問題を抱える患者をケアすることは、特に臨床現場での経験が少ない研修医にとっては困難である。その解決策となるのは、安全で再現可能な管理された環境の中で体験学習を提供できるインタラクティブVRであるかもしれない。インタラクティブVRを使えば、学生は効果的な管理スキルと対人関係スキルを伸ばすことができる。これらのスキルは医療従事者と患者の両方が身体的傷害および心理的傷害を予防するのに必須である。

シンガポール国立大学ヨンルーリン医学部(The National University of Singapore Yong Loo Lin School of Medicine)は最近、新しく開発した興奮管理仮想現実 (VRAM) プログラムを発表した。このプログラムは、興奮状態の患者を、共感をもって管理する方法を医学生や看護学生に教えることを目的としている。

VRシミュレーションでは、学生は病棟で現実に見られる困難なシナリオに対処する。このシナリオでは、薬物誘発性精神病を患っている患者が医師の診断に反対し、退院を要求する。学生には状況を落ち着かせるためにさまざまな選択肢が与えられる。

学生の選択肢には、例えば、患者に言うべきこと、薬を投与するタイミング、身体を拘束するタイミングなどがある。選択が異なればVRの結果は異なる。学生は自身の決定が患者に与える良い影響・悪い影響を現実的に体感するので、現実の患者が感じていることへの共感が促される。これが重要なのである。

最初のトライアルの後、VRAMは学生たちから肯定的な評価を受けた。学生たちは興奮した患者を管理し、コミュニケーションをとる自信がついて、患者に対する共感が深まったと報告した。その後、同校は医学部4年生と看護学部2年生の必修講義モジュールの一部としてVRAMを導入した。

④ AIが成績を予測

コロナ禍の学校閉鎖により世界中で教育が中断され、2020年3月までに165カ国以上で15億人の学生が影響を受けた。学校はオンライン学習により学習を継続しようとしたが、対面授業から仮想学習環境 (VLE) への突然の移行により、一部の学生の中退率が増加した。

成績不振の学生の場合、VLEをうまく使いこなせず、友人や教師との交流が十分ではない可能性がある。これらはどちらも効果的な学習にとって重要である。より多くの学生が卒業できるよう、コースの早い段階でこうしたリスクのある学生を特定し、教師が介入できるようにすることが極めて重要である。

台湾の亜洲大学および高雄科技大学の研究者チームは、オンラインコースの最初の数週間で学生の合格または不合格の可能性を90%の精度で予測できるAIフレームワークを開発した。

説明可能な学生成績予測 (ESPP) モデルを構築するために、チームは、インドネシアのガジャマダ大学で16週間のオンラインコースに参加した学生の実際のクリックストリーム・データを収集した。チームはHPCの機能を利用して、977人の学生の202,000以上のログを使いAIモデルをトレーニングした。

この結果はApplied Sciences誌に掲載された。早期予測ディープラーニング (DL) モデルはリスクのある学生を第6週の時点で正確に捕捉し、既存のモデルより性能が優れていることが示された。さらに重要なことは、AIは特定の学生が中退する可能性について、その理由を説明できるということである。多くの機械学習モデルには「ブラックボックス」問題がある。入力と出力の両方は確認できるものの、モデルの意思決定プロセスについてはほとんど知られていない。

それとは対照的に、ESPPモデルは、学生が不可の可能性があると分類された理由(オンラインフォーラムのディスカッションに参加しなかった、課題を提出しなかったなど)について視覚的にはっきりと示してくれる。このようにして、新しく開発されたAIフレームワークは、成績不振の学生を特定するだけでなく、改善方法についての指針も提供する。

⑤ あらゆる生徒のための個人教師

優れた教師には大きな違いがある。優れた教師は生徒のニーズに注意を払い、教室では生徒に合わせて異なる教え方をする。ただし、教師がすべての生徒それぞれに向いた学習方法を考えることは不可能である。

ビッグデータが利用可能となり、HPCの処理速度が驚異的に高まったため、オンライン学習プラットフォームは人間の教師の仮想アシスタントとして働くことのできるAI駆動システムに変化した。生徒がこのプラットフォームで学習すると、AIは生徒の長所と短所を見出し、それに応じて内容を調整してカスタマイズされた指導を行う。

これらのAI対応システムは、練習問題による概念の強化や採点などといった反復的なタスクを受け持つことができる。これにより、教師は生徒の全体的な成長の中で他の側面に対応する時間を持つことができる。たとえば、教師は好奇心や創造性を育むことに集中し、生徒に対して個人スキルの中でも特に効果的なコミュニケーションを身につけさせることができる。

中国を拠点とするSquirrel Ai LearningというEdTech企業がある。同社は幼稚園から高校までの生徒を対象として放課後の個別指導を提供する適応学習システムを開発し、ユネスコのAIイノベーション賞を受賞した。Squirrel Ai Learningには独自のテクノロジーを持つ。これは、100億を超える学習行動データを基に構築され、学校科目の概念や知識ポイントを細かく分割する。

Squirrel Ai LearningのAI最高責任者であるトム・ミッチェル (Tom Mitchell) 氏はSupercomputing Asia誌とのインタビューで「Squirrel Ai Learning は500の知識ポイントを30,000の非常に細かい知識ポイントに分割します。すると学習教材の中で生徒が苦手とする領域を正確に特定し、対処することができるのです」と語った。

中国の200都市に所在する3,000の学習センターに1,000万人を超える生徒がSquirrel Ai Learningに登録している。大量の生徒データにアクセスできるため、Squirrel Ai LearningはAIモデルを継続的に改善できる。Squirrel Ai Learningのチームは今後、ChatGPTの基礎となるアルゴリズムと同じ種類の大規模な言語モデルを使用して、インタラクティブ性の高いインターフェイスを作成するつもりである。これにより、自由度の高い学習環境を創造し、生徒の想像力を高めることができる。

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