生成AI(人工知能)により既存の仕事が何千も奪われるかもしれないが、新しい仕事を生み出す可能性もある。どの程度心配すべきなのか、そして最も危険があるのは誰なのか? (2023年12月12日公開)
今年初め、Twitter/Xアカウントにログインしたときに、次のようなメッセージが目を引いた。「AIを使用しなければ、取り残される。将来を見据えた20のAIツール」。
このメッセージは、私がフォローしているあるインフルエンサーからのもので、さまざまなAIツールについてツイートし、人々や企業にそれらを試すよう促していた。それらのAIツールは、オーディオ、ビデオ、画像、研究から、デザイン、テクノロジー、生産性まで、ほぼあらゆるものをカバーしていた。
私はジャーナリストとして、AI、特に生成AIがどのようにして一部のタスクや仕事を簡素化し、他のタスクや仕事を完全に不要にするのかを理解しようと努めてきた。このようなツールが利用できるということは、企業がAIを使ってコストを抑えて人員を削減し、さらには部門全体を廃止しても同等以上の成果を生み出す可能性があるということだ。
昨年11月、テクノロジー革命が世界を震わせた。Microsoftの支援を受けている研究機関であるOpenAIがオープンソースAI言語モデルであるChatGPTを立ち上げたのだ。ChatGPTは詩や散文を書き、哲学的な思考を伝え、あらゆるトピックについて流暢な会話をすることができた。その能力は感動的であり、用途の可能性は無限に思えた。しかし、その立ち上げはさまざまな業界にパニックの波をもたらした。
リサーチ・アンド・マーケッツはダブリンを拠点とする市場調査会社である。同社の最近の報告書によると、2022年から2028年にかけて、アジア太平洋地域の生成AI市場の投資の年間平均成長率(CAGR)は33.1%と大きく成長すると予測されている。
同報告書は、中国が2021年にこの地域の生成AI市場を独占し、2028年までトップを保ち続け、市場価値は40億米ドルに達することも予想している。中国では、バイドゥ、アリババ、テンセントなどの国内最大手のテクノロジー企業がこの革新的なテクノロジーに多額の投資を行っている。中国科学技術部も、さまざまな分野にわたるAIの統合を促進する計画を発表した。同時に、北京のような主要都市の地方政府は、この分野の開発者を支援すると発表した。
リサーチ・アンド・マーケッツの報告書は、日本、韓国、インドもアジアの生成AI産業の重要なプレーヤーとして台頭すると予測している。さらに、2023年1月にInternational Journal of Academic Research in Economics and Management Sciences誌に掲載されたマレーシア・プトラ大学の研究者たちによる別の研究では、テクノロジー導入による経済強化が成功すれば、東南アジア全体の国内総生産(GDP)は2030年までに約10~18%向上するとしている。
生成型AIに関する話題が増えている中、新しい雇用につながる一方で、雇用の喪失を引き起こす可能性があるという懸念が生じている。
2023年初頭、マイクロソフトはChatGPTに数十億ドルの投資をすると発表したが、それと同時に多くの従業員を解雇したと発表して話題になった。この動きは、収益の伸びが鈍化するという同社の予測に対応するものだった。シャオサン・リュー (Shaosan Liu) 氏は、北京を拠点とするテクノロジー政策の専門家であり、自律型ロボットシステム向けの統合ソリューションを開発したパーセプティン社の設立者である。彼はAsian Scientist Magazine誌に対し、生成AIテクノロジーはまだ初期段階にあるものの、中国やインドといった国々のサービス業に大きな影響を与える可能性があると語った。
リュー氏は「産業革命と同じくらい、人類にとって極めて重要な瞬間だと思います」と述べた。しかし、企業は依然として生成型AI戦略について模索し、人員に与えるかもしれない影響についてあれこれ想定している段階であるため、影響の正確な性質についてはまだ議論の余地がある。
マレーシアプトラ大学が2023年1月に行った調査によると、この地域の約83%がAI導入の初期段階にある。また、技術変化のスピードが加速し、範囲が拡大していることから、生成AIを使いこなせる人材の育成が困難になってきていることも指摘されている。
データサイエンティストであるアスウィニ・トータ (Aswini Thota) 氏は、オーディオ機器メーカーであるボーズ社でAIを使う予測手法に関する作業を指揮している。トータ氏は、生成AIシステムは必然的に労働市場を混乱させ、私たちになじみのあるいくつかの業務を根本的に変えるだろうと述べた。たとえば、インド、フィリピン、中国などは、熟練した労働力、人件費の低さ、語学力の高さからサービスやビジネスプロセスのアウトソーシングの大きなハブとなっているが、これらの国のカスタマーサービス業界は混乱に見舞われるだろう。
しかしながら、混乱の程度と業務の再設計企業独特のニーズと企業が提供するサービスの性質によって決まるとトータ氏は述べた。彼は次のようなシナリオを考えた。オンライン・アパレルショップで働くラムというカスタマーサービス 業者がいる。ラムはSサイズとMサイズのどちらのドレスにするべきか迷っている顧客から電話を受けた。ラムが顧客の問題についてさらに詳しく調べている間、AI搭載アプリはラムのアシスタントとして店のデータベースから関連するサイズ情報とグラフを検索する。このアプリは、満足した顧客の行動データに基づいて、顧客の満足を得るために使用できる適切な表現もラムに教えてくれる。
Modulus Global社は米アリゾナに本社を持つテクノロジーソリューション会社である。そのCEOであるリチャード・ガードナー (Richard Gardner) 氏は、Asian Scientist Magazine誌に対し、生成AIシステムはしばらくの間は雇用市場に大きな混乱を引き起こすかもしれないが、従業員が変化に適応し、今後のテクノロジーに備えて定められた新しいスキルを獲得すれば、その影響は軽減されるだろうと語った。「もちろん、すべては経済大国の政治家や官僚が可決した規制改革に基づいて変わる可能性があります」とガードナー氏は述べた。
ガードナー氏は、アジアで従業員を抱える企業や大手販売店の多くが先進国に本社を置いているため、南アジアおよび東南アジア諸国は自国ではなく先進国の決定に大きな影響を受ける可能性があると述べた。
生成AIなど最先端テクノロジーに関しては、多くの政府がその規制方法をまだ模索中であることが一般的な問題となっている。今年3月、イタリアは個人データ保護への懸念を理由にChatGPTを使用禁止にした。イタリアのデータ保護当局であるGaranteは、OpenAIに対し、当局の要求に従うよう4月末までの期限を与えた。Garanteの主張は、ChatGPTはデータ保護法に違反する方法でデータを収集し、年齢認証がないというものだった。ChatGPTは、Garanteが提起した問題に対応した後、4月末にイタリアで再度アクセス可能となった。変更の中でもとりわけ目立つものとして、ChatGPTには13歳未満の子供を保護するためのチェックが追加されたことが挙げられる。
西側諸国がAIに制限を課すようになれば、それらの国で活動する企業は、規制の緩やかな国の企業と契約する可能性が高い。
AIは特にソフトウエア、データ分析、ロボット工学の分野でも新たな雇用の機会を生み出すだろうとガードナー氏は考えている。経済の自動化がさらに進むとしても、自分自身をスキルアップさせ、新しいテクノロジーに適応する手段を持っている者は、今後数年間で、さらに良い雇用の機会を見つけることができる。
ガウラフ・カラ (Gaurav Kala) 氏は、ハノイを拠点としAIとIoT(モノのインターネット)を使うヘルスケア企業VinBrain社で製品管理・グローバルビジネス担当ディレクターを務めている。カラ氏によると、ChatGPTのような生成AIシステムは、ヘルスケア分野の雇用を奪うことはなく、むしろ、雇用が増える可能性がある。カラ氏は「生成AIは、予約のスケジュール設定、カルテの管理、消耗品の注文などといった業務を自動化できます」と語る。
カラ氏は、生成AIは臨床結果を予測し、診断を支援して患者データの傾向を特定するためにも使用できるので、医療従事者は情報に基づいた正確な臨床決定を行えるようになると付け加えた。さらに「生成AIは効率性の高い放射線診断システムを作り上げ、臨床医は患者に個別化された診療を集中して行えるようになります」とも。
一方、政策アナリストでありインドのCentre for Internet and Societyの設立者の1人であるプラネシュ・プラカシュ (Pranesh Prakash) 氏は、生成AIが雇用に与える影響について予測するのは時期尚早だと考えている。彼は「特定の仕事が不要になるかどうかを予測するのは困難です。 人はいくらでもシナリオを思い描くことができます。過去や他のテクノロジーの出現を見て、相似物を考えだすのです。相似物を考え出す価値はないでしょう」と語った。
しかしながら、ダブリンに本社を置きITサービスとコンサルティングを専門とするアクセンチュア社は今年3月に「全人類のための生成AIの新しい時代」という報告書を発表し、ビジネスリーダーたちに対し、仕事と業務を再設計し、人材に新しい技能を身につけさせるよう促した。
一方、中国は独自の生成AIシステムを構築している。今年3月、中国ネット検索大手の百度(バイドゥ)は、ERNIE (Enhanced Representation through Knowledge Integration) と呼ばれる次期チャットボットを発表した。ERNIEはChatGPTの代替として開発され、現在、試験段階にある。
中国は生成AIへの投資と研究所の設立を積極的に行っているが、この技術が日常品となり雇用に影響を与えるまでにはしばらく時間がかかるであろう。
生成AIを使うシステムは、研究、開発、実装に莫大な投資を必要とするため、新たな雇用の機会につながる可能性がある。やがてAIシステムがさらに普及するにつれて、人間による監視とメンテナンスの必要性も増えるであろう。
生成AIは人間と組み合わせて使用すると最も効果的であり、人間の能力を高め、より効率的かつ効果的にタスクを実行できるようになる。これは、調査書や政策概要書など複数の文書で繰り返し述べていることである。
ただし、政府や業界などすべての関係者が尽力してこのテクノロジーの利点が社会のあらゆる箇所で共有されるようにすることが欠かせない。