【AsianScientist】バングラデシュの次世代科学者育成へ、微生物学者・サハ博士が尽力

バングラデシュの微生物学者であるセンジュティ・サハ(Senjuti Saha)博士とそのチームは、同国の次世代の科学者や地域社会のリーダーを育てようとしている。(2024年1月17日公開)

バングラデシュの児童保健研究財団 (The Child Health Research Foundation:CHRF) は、同国で予防可能な病気により死亡する子供や障害を引き起こされる子供の数を減らすには、若者が科学の使命を追求でき、地域社会で地元の英雄として台頭できるようにしなければならないと考えている。

新興国や途上国からなるグローバルサウス諸国には資金の問題があるため、地域のニーズに対応できる熟練した研究者を育成しようとしてもうまくいかず、国外流出も防ぎきれない。病負荷の高いバングラデシュでも同様にネガティブな傾向があり、特に女子学生のSTEM入学者数が大きく減少している。

状況を好転させようと、CHRFは2022年に「バングラデシュのための科学者育成 (Building Scientists for Bangladesh:BSB)」を立ち上げた。Asian Scientist Magazineは、CHRF理事長であるセンジュティ・サハ博士とそのチームメンバーに、バングラデシュのSTEM教育および研修へのアクセスや機会を拡大するというプログラムとその中心となる使命について話を聞いた。

それは2020年、チームを率いてダッカにあるCHRFのゲノム配列決定施設で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のゲノムの配列解読に成功した後のことだった。サハ博士は受信トレイがメールで溢れかえっていることに気づいた。多くの学生が微生物学の分野に進むにはどのようにすればいいのか知りたがり、親たちも娘がサハ博士のような科学者になるにはどのようにすればいいのか知りたがっていた。

微生物学者を両親に持つサハ博士は、放課後は両親の研究室で顕微鏡をいじったり、自分の実験を試したりして過ごした、数えきれない午後の思い出があった。博士は、バングラデシュの人々の間でSTEMに関する教育やキャリアが広く普及していないことに対処しなければならないと感じた。

サハ博士は「私が子供の頃、両親は私のために研究室への扉を開いてくれたのですから、私も同じように、次世代の科学者をCHRFの研究室に招き入れるべきと思いました」と語った。

ストリーム 1: 科学を人々のところに

BSBプログラムのストリーム1では、サイエンスキャンプや科学者との対話型セッションを開催し、全国の遠隔地や資源が不足している地域の学生を科学に触れさせることを目的としている。サハ博士は、科学が持つ実用性と利益へのアクセスを公平にすれば、多くの若者が自分自身を地域社会の役に立つ科学者になるという想像をしやすいと考えている。

学生たちは簡単にできる実験を行い、「病気の原因は何か」「なぜ親に似ているのか」といった疑問への回答を出す。すると、学生たちは教科書の内容だけを考えるのではなく、科学を日常生活と密接な関係にあると考えるようになる。注目すべきは、このプログラムが農村部の少女たちを支援していることである。サハ博士は「私たちは少女たちに、疑問を持ち、証拠を作り、それを使って自分自身の決定を下すことを奨励しています。これは科学者たちが行う方法と同様です」と語った。

ストリーム 2: 人々を科学のところに

CHRFは、将来の進路をまだ決定していない高校生のために、ダッカにある最先端研究施設を、科学の世界を深く知ることができるスペースとして提供している。BSBのストリーム2プログラムの参加者は、放課後や夏休みのサイエンスキャンプに参加したり、さまざまな楽しく実用的な研究室トレーニングプログラムに登録したりできる。たとえば、「感染症探偵」というゲームでは、参加者は微生物学と生化学の実験技術を使用して「病気の子供の謎」を解くためのヒントを毎日受け取る。

ストリーム 3: 大学生のスキル開発

バングラデシュでは、STEM分野の学部に在籍する学生は重要な科学技術に関する理論上の知識を学ぶが、すべての大学が実践的なトレーニングを提供できるわけではない。学生たちはBSBのストリーム3で、ゲノミクス、微生物学、または生化学に特化した検査技術とデータ分析に関する集中トレーニングを選ぶことができる。

CHRFは、臨床研究、診断、およびゲノミクスの専門知識を活用して、バングラデシュ国内の科学能力の構築と、世界に負けない研究環境の推進に尽力している。CHRFは公立大学と私立大学の両方と協力して、実践的なトレーニングを提供するだけでなく、国内でのゲノム研究インフラの確立にも取り組んでいる。

変化を促す

現在、BSBプログラムには圧倒的な数の応募がある。学生たちは、科学者の生活を知ることのできる機会に感謝し、特にBSBのトレーナーが忍耐強く、学生が質問しやすい雰囲気を作ってくれたことに感謝すると述べている。

CHRFのトレーニング担当役員であるアディッティヤ・アレフィン (Adittya Arefin) 氏は「ここに来る学生の多くはスキル開発に時間と労力をどのように使えばよいのか分からず、困っています。けれどトレーニングを終了する頃には、学生たちはビジョンを明らかにしてここを去るだけでなく、優れた科学的思考やコミュニケーション能力を身につけています」と語る。

サハ博士は、BSBの目的は、すべての研修生を科学者に変えることではないと強調する。むしろ、目的は、支援を必要とする人々を、自分は科学者になれると考えることができるようにすることである。

国が必要とする科学者の数は医師ほど多くはありませんが、情熱的で献身的な数名の人々がいればいいのです。このような人々が研究を通じて偉大な発見と社会変革をもたらすのです」とサハ博士は話す。

CHRFのBSBグループリーダーで微生物学者であるナジファ・タバスム (Nazifa Tabassum) 氏は、研究所は様々なSTEM専門家の協力を強く推し進めたいと考えている。

「BSBは科学を可視化します。これにより、人々が科学者の貢献を評価できるようになります。将来の政策立案者になる人々もいるかもしれないので、これは非常に重要です」とタバスム氏は付け加えた。

サハ博士はBSBの将来の計画を語ってくれた。博士は協力的な科学文化を奨励する学際プログラムの構築に熱心に取り組んでいる。博士のチームは、増え続ける応募者に対応するために、大規模な研究機関を設立しようとしている。さらにBSBは、科学者の中に起業家を育成し、持続可能な研究を支援し、革新的な新興企業の成長を促進しようとしている。

「私たちは始めたばかりです」とサハ博士は力強く述べた。

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