30年にわたるデータから、バングラデシュで繰り返される洪水は、長期的な公衆衛生上の負担となり得ることが明らかになった。(2024年1月30日公開)
世界中の地域社会、特に脆弱な地域の地域社会は、すでに気候変動による異常気象の影響と戦っている。最近、ある研究チームがバングラデシュの洪水多発地域での生活が乳児死亡率に及ぼす30年間の影響について調べた。研究結果は米国科学アカデミー紀要に掲載され、気候変動の長期的な影響の実態を明らかにした。
バングラデシュは毎年モンスーンに襲われるが、降雨量は以前より激しさを増している。それだけでなくヒマラヤの氷河が融けていることから、この国の低地周辺の川は増水し、毎年壊滅的な洪水を引き起こしている。カリフォルニア大学サンディエゴ校のスクリップス海洋研究所とカリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究者たちは、地域社会がこのような気候災害に毎年さらされる結果として何が発生するのかを証明する方法を見つけたいと考えている。
研究論文の共著者であり、スクリップス海洋研究所で気候変動と健康を研究するタリク・ベンマーニア (Tarik Benmarhnia) 准教授は、「健康への悪影響を代表するものは乳児死亡率ですが、回避は容易です」と述べた。「もし乳児の死亡を回避できないならば、栄養失調、メンタルヘルス、伝染病の問題も発生する可能性があります。公衆衛生の観点から見ると、乳児死亡率は氷山の一角にすぎません」。
チームは最近の大規模洪水の高解像度地図を使用して、まず国内で洪水が発生しやすい地域を正確に特定した。次に、この情報を、米国国際開発庁の人口保健調査 (DHS) プログラムが1988年から2017年の間に収集したバングラデシュ人の母親58,945人および新生児150,081人から得た健康データと統合した。
洪水リスクが乳児に及ぼす潜在的な影響を最もうまく抽出することを目的として、この研究では、乳児死亡率に影響を与えうる他の測定可能な変数(収入や教育など)が同じ母親たちを慎重にマッチングさせた。
チームの分析から、洪水が起こりやすい地域に住む人々は、洪水から安全な地域に住む人々に比べて、30年間で出生数1,000人当たり5.3人の乳児死亡リスクが増加する可能性があることが明らかになった。実際、データは、洪水が起こりやすい地域で生まれた子供は、1歳の誕生日までに死亡する可能性が8%高いことを示している。
チームは、人口データ、加重統計分析、洪水地帯マッピングツールを利用して、サンプルグループの結果を外挿することで全国規模の推定値を計算した。すると、1988年から2017年の間に、バングラデシュでは洪水が起こりやすい地域に住んでいたために152,753人以上の乳児が死亡していることが分かった。
ベンマーニア准教授は、この研究の分析では気候変動が果たす役割は考慮されていないものの、30年間にわたって乳児死亡率のリスクは全体的に一貫して上昇していることが分かったと語った。
「私たちは気候変動の役割を定量化しませんでした。重要性は分かっていますが、誰も取り上げないのです」とベンマーニア准教授は語った。「私たちのデータは、私たちの調査結果を気候変動と明確に結び付けることはできませんが、気候変動が洪水を引き起こし、洪水は公衆衛生に悪い影響を与えるという考えと一致しています」。
それにもかかわらず、この研究結果から、特にバングラデシュのような気候破壊に対して最も脆弱な国において、気候変動による長期的な健康への影響についてさらに詳しい調査が必要であることが分かった。また、研究結果は長期にわたる他の気候関連暴露の影響を評価する指針としての役割も果たす。
チームは現在、地域社会が洪水その他の気候災害に対して最も脆弱な時期に食料安全保障を改善することを目的として、季節に応じた栄養介入の実施について調査を行っている。
「私たちは他の気候変動やいわゆる異常気象の長期的な影響について考え、対処する必要があります」とベンマーニア准教授は述べた。「異常という概念を再定義する必要もあるかもしれません。その激しさは異常ですが、洪水などの環境災害は珍しいことではなくなりました。これらの問題を単なる緊急事態ではなく、繰り返し発生する課題として考え直す必要があるかもしれません」。