【調査報告書】『特許データベース分析で見るアジア・太平洋地域の技術開発』

2024年3月5日 JSTアジア・太平洋総合研究センター

科学技術振興機構(JST)アジア・太平洋総合研究センターでは、調査報告書『特許データベース分析で見るアジア・太平洋地域の技術開発』を公開しました。
以下よりダウンロードいただけますので、ご覧ください。
https://spap.jst.go.jp/investigation/report_2022.html#br06

エグゼクティブ・サマリー

アジア・太平洋各国・地域について特許文献等により、特許出願の概況調査、技術貿易の調査、技術優位性分析、特許出願人別分析、国際特許出願動向の調査を実施した。

特に注目すべき技術区分、出願人については、技術の類似性を元に各国・地域や各出願人の特許出願状況を同一マップに表示させた俯瞰図を作成し、技術開発動向等を比較分析した。

(1)特許出願の概況

アジアでは出願件数は概ね増加傾向にある国が多く、技術開発力が向上していると考えられる。特に中国が出願件数を押し上げている。マレーシア、インドネシアなどは減少傾向にある。技術区分別では「一般機器」、「機械工学」、「数学・情報」の割合が高く、特に「数学・情報」のシェアを拡大している国が多い。大洋州は、ニュージーランドの減少を補うようにオーストラリアが増加しており全体として大きな増減は見られない。技術区分別では「ライフサイエンス」、「機械工学」の割合が高い。中央アジアについては出願件数が全体に少なく、かつ減少傾向である。

(2)技術貿易

全ての調査対象国・地域について赤字が継続している状況が確認された。アジアでは技術輸出が増加している一方で技術輸入も増加しているために赤字幅が拡大する国・地域が多い。シンガポール、台湾、韓国、香港、中国は技術輸入が横ばいや減少傾向の中、技術輸出が増加し、赤字幅が縮小している。大洋州については、オーストラリアは技術輸入の減少により、ニュージーランドは技術輸出の増加によりそれぞれ赤字幅が減少していた。中央アジアについては技術輸出が増加しない中、技術輸入が増加し、赤字幅が増加傾向にある。

中国は特許出願のように突出してはおらず、シンガポールや韓国、ニュージーランドといった国々が、技術開発を比較的効率よく経済的利益につなげている状況が確認された。

(3)技術優位性分析

顕示技術優位指数を用いて各国・地域が優位性を持つ技術区分を分析した。今回の技術優位性分析においては、「医療・健康」、「ライフサイエンス」、「化学」「数学・情報」で優位性の高い国・地域が多くみられた。特に、「化学」はアジアで、「医療・健康」は大洋州および中央アジアで、「ライフサイエンス」はASEAN 各国、大洋州および中央アジアで高い傾向がある。国・地域別に特徴的なところでは、中国は「環境」の優位性が高い一方で、「医療・健康」「物理学」は低い。また香港、台湾、シンガポールは「数学・情報」の優位性が高い。

(4)特許出願人分析

出願人に着目し、「特許出願全体や自国への出願における上位出願人」、「産学連携出願」、「大学・公的研究機関の上位出願人」について動向を調査したほか、一部の分野については、俯瞰マップを用いて詳細分析を行った。

中国、韓国、台湾などで自国・地域の機関(自国・地域の企業や大学・公的研究機関)が上位にみられた一方で、ASEAN をはじめとして多くの国で、自国の出願に絞った場合でも、他国の企業による出願が上位にみられた(例えばタイは日本企業の本田技研、トヨタ自動車が上位となっている)。これらの国は、他国の企業が現地に拠点を設置し、研究・技術開発・生産を行っている状況と考えられる。産学連携出願については、自国出願件数に対する割合がニュージーランドは3%を超え、2%台で香港、シンガポール、中国が続く。

俯瞰解析では、中国科学院 (CAS)、台湾工業技術院(ITRI)、インド科学産業研究委員会(CSIR)、シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)等が複数分野に対して積極的に特許を出願していることが確認された。

(5)国際出願

特許の国際出願動向調査では、「外国からの出願」、「自国から国外への出願」、「国際共同出願」について動向を調査した。

「外国からの出願」については、中国、台湾、香港が絶対数、増加率ともに大きい。中央アジアは総じて減少傾向にあり、地域として魅力が下がっていると考えられる。

「自国から国外への出願」についてみると、上位はおおむね企業によるものであったが、シンガポール等一部の国では大学・公的研究機関が上位にみられるケースも存在していた。出願先国は米国への出願が最も多いが、中国向けも伸びている。

「国際共同出願」についてみると、アジア各国・地域についてはQUALCOMM(米国、企業)やSamsung(韓国、企業)が上位となるケースが目立つが、タイにおいては日本企業が上位にみられた。

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