南シナ海で温暖化が続けば、南アジアと東アジアで降水量が増加する可能性がある。(2024年3月25日公開)
新たな研究から、南シナ海とその周辺地域で起こる気候変動は、この地域と地球の両方の気候パターンに「重大な影響」を与える可能性があることが判明した。南シナ海は東南アジアの東部に位置し、ブルネイ、中国、インドネシア、マレーシア、フィリピン、台湾、ベトナムに囲まれた部分的閉鎖海域である。
南シナ海とその周辺地域 (The South China Sea and its surrounding areas:SCSSA) にはインド太平洋、東南アジア、チベット高原が含まれ、世界の気候システムにおいて重要な役割を果たしている。 この地域は海洋・陸地・大気の相互作用が激しいことが特徴であり、地球規模の気候変動の影響を非常に受けやすい。
Ocean-Land-Atmosphere Research誌に掲載されたこの研究は、この地域の気候変動は急激な温暖化を特徴としており、南シナ海とその周辺だけでなく、世界中の気象パターンにも影響を与えていると述べている。アジアではこの急速な温暖化のため、夏のモンスーン時に降雨量が増加し、熱帯低気圧の発生頻度と発生場所は大きく変化している。
中国の中山大学のソン・ヤン (Song Yang) 教授は「南シナ海とその周辺地域の気候変動は非常に複雑です。地域の気候の形成に重大な影響を与えるだけでなく、世界中の天気と気候パターンに広範囲に影響を及ぼします」と述べた。
この地域の特徴の 1 つは、地域的なハドレー循環、ウォーカー循環、アジア モンスーン循環という 3 つの重要な風のパターンが重なっていることである。これらの風のパターンは循環またはセル(細胞)とも呼ばれ、地球規模の空気の動きに不可欠であり、地域の気候をさらに広い地域に結び付ける。
気候変動はすでに重なり合う 3 つの風のパターンに変化を引き起こしており、温帯地域では気候が乾燥し、湿度が低下すると考えられている。
研究には「SCSSAで潜熱が高まれば、北アフリカ、南アジア、東アジアなどの地域の気候変動に影響を与える可能性がある。その一方、チベット高原の地表温度が高まれば南ヨーロッパと北大西洋で大きな気候異常を引き起こすかもしれない」 という記載がある。
この地域を通過する熱は北極など遠隔地域の気象パターンに影響を与える可能性がある。研究チームは、 西太平洋と南アジアのモンスーン地域に変化があれば、太平洋とアフリカの間の空気が移動し、北アフリカの干ばつを悪化させるかもしれないことを発見した。
温暖化が進むと南アジア、東アジア、オーストラリア北部では降水量が増加する。これは、海面が暖かくなるにつれて空気中の水蒸気が増え、南シナ海とその周辺地域の風のパターンが強くなるためである。
チームは「SCSSA上の対流が強くなれば異常な下降運動を引き起こし、北半球の春から夏にかけて中国南部、南アジア、アフリカ北部で干ばつを引き起こしかねません」と述べている。
インド洋、太平洋およびチベット高原に変化があれば、東アジア、北アメリカ、南極、南アメリカなどといった下流地域の気候だけでなく、北アフリカ、南ヨーロッパ、北大西洋、中東などの上流地域も影響を受ける可能性がある。
研究は、南シナ海では温暖化が今後も続くと予想している。大気中の湿度が上昇すれば南アジアと東アジアで降水量が増加する。研究では、将来、温暖化がさらに進めば、南シナ海で超大型台風が発生し、さらに深刻な影響が予測されるという。加えて、増加した大気中の水分の影響を受けて、アジアからオーストラリアにおけるモンスーンの降水量は大幅に増加すると考えられる。