Asian Scientist Magazine誌は今年の国際女性デーにあたり、STEM の専門分野でトップに立ち、地域の若い女性科学者にメッセージを送り続けている6人の活動的な女性を取り上げる。(2024年4月5日公開)
Asian Scientist Magazine誌は国際女性デーを記念して、アジア各地の6人の素晴らしい女性科学者の研究に焦点を当てる。これらの女性科学者たちはSTEM 分野で自分たちの専門分野の形を変えてきた。彼女たちは原生林の保護を主張し、あるいは宇宙の天気が地球に及ぼす影響を調査しながら科学的な飛躍的進歩や社会の発展に大きく寄与してきただけでなく、この地域の若い女性科学者の卵たちに力を与え、インスピレーションを与える役割も果たしてきた。
国際稲研究所 (IRRI) の研究者であるスワティ・ナヤック氏は、アジアとアフリカの小規模農家を稲種子システムに参加させる上で重要な役割を果たしていることで知られている。農業従事者は試験と開発の段階から関与し、気候変動に強く栄養価の高い米品種を公平に手に入れることができる。 ナヤック氏は、IRRI 種子システムの南アジアリーダーであるだけでなく、CGIAR(農業食品システムに特化した世界的な研究パートナーシップ)の主要イニシアチブであるSeedEqualにおける穀物種子システムグループのリーダーでもある。
ナヤック氏は草の根活動の経験があることから、インド政府初の女性農業者専門イニシアチブの責任者となった。彼女の取り組みにより、農業従事者は女性も男性も、収量を最適化し、環境負荷を削減し、経済回復力を構築できるようになった。
2023 年、彼女は「フィールド研究とその応用への貢献を讃えるノーマン E. ボーローグ賞」を受賞した。国際女性デーにあたり、ナヤック氏は若い女性科学者たちに、一人ひとりの発言は称賛に値すると語りかける。
「私は常に、私たちが持つ多様性は物理的な力であり、能力であり、イノベーションの触媒となると信じています」とナヤック氏は語った。「自分の能力、自分の鋭い観察力、自分の職業倫理を信じて、科学への熱意をこの世界にプラスの影響を与えることに使ってください」。
ナショナル・ジオグラフィック・エクスプローラーであり、Edge of Existence プログラムのフェローであるアリファ・ビンサ・ハク助教授は、熱心な海洋生物学者であり、ベンガル湾のサメやエイの保護を専門としている。
バングラデシュのダッカ大学動物学部の助教授であるハク助教授は、海に全面的に依存している漁業従事者も対象として、エビデンスに基づく海洋保全に熱心に取り組んでいる。ハク助教授は、沿岸地域のコミュニティ同士のつながりを築き上げ、漁業従事者に対し絶滅危惧種を放流し、水揚げされたすべてのサメやエイの時系列データを収集するよう教育し、奨励している。
ハク助教授とそのチームは多様性、漁業、貿易に関する最も広範な地域データセットをまとめ上げ、世界的に意義のある絶滅危惧種の個体群を発見した。2023 年にはバングラデシュの海洋保護に対する偉大な貢献が評価され、WINGS Women of Discovery Award を受賞した。
ハク助教授はバングラデシュの女性海洋生物学者として、STEM 分野で女性が直面するジェンダーに基づく課題を熟知している。ハク助教授は 科学に熱意を持つ若い女性たちに向けて、「続けなさい」というアドバイスを与える。
彼女は「自分の心に耳を傾け、内面に存在する力を見つけ、『あなた』になるための最も素晴らしい旅を始めなさい」と語る。「私のささやかな人生の中で、大変な仕事を勤勉に行い、素晴らしい何かを達成しなかった人を一人も見たことがありません」。
デリマ・シララヒ氏は先住民コミュニティのために環境擁護活動を行っている。その活動は、北スマトラ州の原生林の保護に取り組むNGOであるKelompok Studi dan Pengembangan Prakarsa Masyarakat(コミュニティ・イニシアチブ研究開発グループ・KSPPM)のボランティアから始まった。北スマトラ州では産業プランテーションにより、多くの地区が森林伐採に直面している。
現在、シララヒ氏は KSPPM の事務局長を務めている。彼女のチームは6つの先住民族コミュニティのために、17,824エーカーの熱帯林を法的に守り管理している。この地域で最も重要な産業は紙パルプ業であるが、この土地は、ある紙パルプ会社から買い戻したものだ。 先住民コミュニティは森林回復を開始し、生物多様性の高い熱帯林を使った大きな二酸化炭素吸収源を生成中である。
2023 年、シララヒ氏は「グリーン・ノーベル賞」とも呼ばれるゴールドマン環境賞を受賞した。彼女の望みは、科学技術の進歩が、人と自然の関係を調和させることである。
彼女は「若い女性科学者には、地球の持続可能性を支え、気候正義の実現に積極的に参加し、研究開発、特に人間と自然が精神的に再び結びつき続けるための知識を追求して欲しいと思います」と述べた。
カルメンシータ・M・デビッド・パディラ教授は、フィリピン大学マニラ校医学部に国内初の遺伝医療部門を設立したことで知られている。この部門は後に人類遺伝学研究所に発展し、フィリピン大学マニラ校国立衛生研究所の中でも不可欠な組織となった。
パディラ教授が健康と研究に向ける熱意は希少疾病法および新生児スクリーニング法の制定とロビー活動に向けての動力源となり、フィリピンにおける包括的新生児スクリーニングプログラムの実現となった。
パディラ教授は2014年からフィリピン大学マニラ校の学長を務めており、フィリピン大学マニラ校医科部小児科の教授でもある。彼女は 医学分野での多大な貢献が評価され、ボンボン・マルコス大統領から国家科学者勲章を授与された。
パディラ教授は「世界の人口の約60%がここアジアに集中しています。ここでは昔からある問題と新たに出現した問題が社会のあらゆる階層の人々を悩ませています」と語った。 「だから、私は、アジアの若い女性科学者が、スキルを磨き、国民の生活を向上させることに心を注ぐことを強く願っているのです」。
マダヴィ・スリニバサン教授は資源を最大限に活用する廃棄物をゼロにするサーキュラーエコノミーの提唱者であり、電子廃棄物の持続可能なリサイクルと先進的なエネルギー貯蔵ソリューションに専門知識を活用している。
現在、スリニバサン教授はシンガポールの南洋理工大学 (NTU) の教授であり、NTU持続可能局とNTUエネルギー研究所の事務局長を務めている。彼女は「廃棄物には廃棄物」という先駆的なアプローチを使っている。オレンジの皮の廃棄物を使用してリチウムイオン電池廃棄物から貴金属を回収し、それから利用可能な電池を生産可能にする。
スリニバサン教授は名誉ある賞を数多く受けてきたが、2023年にはエネルギー効率の高い設計原理を利用して電気自動車のバッテリー性能を向上させる取り組みが評価され、 Underwriters Laboratories-ASEAN-U.S. Science Prize for Womenの特別賞を受賞した。スリニバサン教授は、科学者志望の女性たちに、たとえ障害に直面しても前進し続けるよう励ましの言葉をかける。
彼女は「自分自身、自分の道、自分の洞察力を信じて、諦めないでください。 何事にも毎日ベストを尽くし続け、挫折を踏み台に変える回復力を身につけてください」と述べた。
日本の武蔵野美術大学の宮原ひろ子教授は、登山靴を履いて森へ向かい、宇宙環境の変化を探求する。樹木の年輪は自然の気候日誌であり、毎年耐えてきた環境条件の記録を残している。宮原教授とそのチームは、古いスギの切り株の個々の年輪を分析し、その中に含まれる炭素14の量と相関させることで、宇宙放射線と太陽活動の長期変動を識別することができた。年輪からは成長時の気温も分かった。
彼女が収集したデータは、太陽表面を直接観測するのとほぼ同じ精度で11年という太陽活動変動周期を再現できる可能性を持つ。宮原教授はこの研究で、太陽活動が地球の気候に与える影響について理解しようとしている。2023年、宮原教授はその功績により第43回猿橋賞を受賞した。