【AsianScientist】地球温暖化で都市ヒートアイランド現象が加速、その対策は?

都市ヒートアイランド現象により、都市の人口密集地域はさらに暑くなっている。 アジアの都市計画者や政府はこの問題にどのように対応しているのか? (2024年6月12日公開)

1833 年、薬剤師からアマチュア気象学者に転身したルーク・ハワードという人物が、その後数十年間注目の研究テーマとなる現象を初めて観察した。彼は、ロンドン郊外で記録した気温が、英国最高の科学アカデミーである王立協会が記録したロンドン市内の気温よりも低いことを発見した。同年、ハワードは『ロンドンの気候』というユニークな本を出版した。彼はその中で、1831年から1879年にかけてロンドン全体の平均気温は約摂氏9.17度だったが、ロンドンの人口密集部の気温は10.28度と、わずかに高かったことを指摘していた。

約1世紀後、他の科学者たちが都市の中の建物が密集した部分はそうでない部分よりも高温であるというハワードの指摘を見直し、確認した。これは研究者たちが都市ヒートアイランド (UHI) と呼ぶ現象である。現在、地球温暖化に対する懸念が高まる中、UHIを深く理解し対処するために、さらに多くの研究が行われるようになっている。

欧州委員会の共同研究センターが2022年に実施した調査によると、工業化が進んでいるために都市部は地方よりも10度から15度気温が高いことが多く、その現象は高層ビルやコンクリート道路、不十分な緑地などによく表れているという。都市開発は熱の閉じ込めの原因を作り、都市の密集地域では特に夏に地表面温度が上昇する。

科学者たちは、地球の温暖化が進むにつれて、都市のUHI現象は高まるだろうと考えている。たとえば、シンガポール気象局のデータによると、同国の気温は 1948年以来10年ごとに平均0.25度上昇している。一方、香港では、1885年から2019年までの年間平均気温は10年ごとに0.13度上昇している。香港天文台によると、この度合は20世紀後半にはさらに0.21度まで上昇した。

2050 年までに、70 億人近くが都市部に住むと推測されている。それに加えて、地球温暖化に伴い、異常気象はさらに激しく、さらに頻繁に起こるという予測もある。たとえば、2023年4月、東南アジアは 200 年ぶりという記録的な熱波を経験した。都市住民の増加は、地方住民よりも高温に曝露される人数が増えることを意味する。さらに、猛暑は人間の健康に深刻な脅威をもたらす。熱中症、高血圧、喘息のリスクを高めるだけでなく、糖尿病などの既存の病気を悪化させもする。さて、我々は何ができるのか?

熱吸収の低減

建築環境は、UHIの最大要因の1つである。舗装面と屋根は都市表面のおよそ60%を占め、都市で熱がこもる主な原因の1つを作っている。たとえば、2022年にEcotoxicology and Environmental Safety誌に発表された研究では、中国の北京大興国際空港の建設によりUHI強度指数が35パーセント増加したことが明らかになり、大規模な建設が熱公害を悪化させることが示唆されている。

これらの影響を軽減する 1 つの方法は、熱エネルギーを大気中に反射する白い屋根や明るい色の石などの建築材料を使用することである。シンガポール都市再開発局 (URA) の研究開発グループディレクターであるチウ・ウェン・トゥン(Chiu Wen Tung) 氏によると、涼感材料を使用することで高層公共集合住宅の周囲温度を最大2度下げることができる。シンガポール政府は他のコミュニティスペースでの使用について検討を続けている。

コンクリート道路を半透過道路に変えることも、道路の熱吸収を減らすもう一つの手段である。2014年、中国政府は洪水問題に対処するために都市を「スポンジ」に変えるプロジェクトを試験的に開始した。この方法は、とりわけ、道路や舗装面などの硬い表面を多孔質の表面に変え、後の使用のために水を吸収、浄化、貯留する必要があることを意味した。 武漢市がこのような表面を導入したことで得られる利点の 1 つは、都市部の洪水の軽減に加えて、環境を涼しくすることであった。

2020年、都市移行連合(Coalition for Urban Transitions)は研究報告書を発表した。その中で、リーズ大学の研究者たちは、このスポンジ効果手法により武漢の長江公園周辺の気温が3度以上低下したことを明らかにした。2019年にBuilding and Environment誌に発表された広州の別の研究から、多孔質のレンガを使うと舗装面の表面温度が12度低下し、多孔質のコンクリートの場合は20度低下し、さらに、周囲の気温も1度低下することが分かった。

緑化

緑化に関して言えば、シンガポールはまさに達人であり、都市の密集した部分の気温を効果的に下げることができる。シンガポールは 「ガーデンシティ」として知られ、1960 年代にはすでに環境保護目標を都市計画に組み込んでおり、世界で最も環境に優しい都市の1つとなった。2005 年、シンガポールはグリーンビルディング認証システムであるグリーンマークスキーム (GMS) を導入した。GMS は国の建築建設局によって開発され、建築設計と建設の分野でシンガポールの熱帯気候に合わせた高品質・安全・持続可能性の実践を促進する一連のガイドラインを提供した。

2022年、International Journal of Environmental Research and Public Health誌にシンガポールの都市部の暑さ緩和策に関する研究論文が公開された。その論文は、マリーナ・バラージやニュートンなどの商業地区が2017年から2019年にかけての気温変化率が最も低く、年間約1.6%だったことを報告した。興味深いことに、これらの地区には、温度変化率が3%という高い数値を見せた非商業地域と比較して、約 57% 多くの緑地が存在していた。

緑地の面積も重要である。研究チームは、2015年と2020年に上海に所在する24の公園を調査した。その結果、緑地が約50ヘクタール増加すると、地表面温度が0.6度低下することを発見した。

風力の利用

緑化は実行可能な解決策ではあるが、その効果の程度は地域の気候により異なる。乾燥気候の都市は緑化から多くの恩恵を受ける。緑化するだけで都市部と農村部の温度差をかなり小さく抑えることができる。しかし、熱帯気候の場合、緑化だけでは UHI 効果の軽減にうまくいかないことがある。日陰を増やし、空気の流れを改善する戦略と組み合わせる必要がある。

トゥン氏はAsian Scientist Magazine誌に「微気候要因は、屋外の温熱快適性や熱ストレスのレベルに影響を与える可能性があります。気温は重要な要因ですが、全体的に見ると、湿度、風速、直射日光などの他の環境要因も個人が経験する熱ストレスのレベルに影響を与えます」と語った。

東京では、国土技術政策総合研究所 (NILM) が2004年から2006年にかけてUHI問題に関する研究を実施した。研究者たちは建築研究所、早稲田大学、首都大学東京、日本工業大学と協力して、都市の密集部で都市熱ストレスを緩和する「風の道」の可能性を評価した。

「風の道」は風の通り道のことであり、外部からの冷気を都市に流入させるドイツのエコロジー都市計画手法を基礎としている。東京の中心部は東京湾に面しているため、海を冷却源とすることができた。研究者たちが海風に対する壁として機能する建物やその他のインフラを破壊するシミュレーションを実行した結果、東京湾から風の道を通る風が東京の中で1.5キロメートルの長さを冷やす可能性があることを発見した。この研究の後、東京都は壁となっている建物の1つを取り壊し、東京の密集した地域への風の道を開いた。

アクセスの問題

UHI に取り組むには、アジアの都市計画者や政府がより包括的なアプローチをとることも必要となろう。フィリピンを拠点とする建築家であり都市計画家であるレナルド・ポコ (Leanardo Poco) 氏はAsian Scientist Magazine誌に対し 「都市ヒートアイランド効果は、単なる都市計画の問題ではなく、社会経済的問題でもあります」と語った。 フィリピンの各都市には土地開発に関する独自の規制があり、費用は民間部門が負担することが多い。土地開発業者は持続可能な技術を使ってインフラを構築しようとするが、現実問題として、熱害に対して最も脆弱なコミュニティがインフラに常にアクセスできるとは限らない。

「中心となる基本計画がなければ、私たちができることはせいぜい村内のオープンスペースや小さな公園や中庭のある門付きの分譲地を作ること程度です。したがって、都市ヒートアイランド問題の一部は、オープンスペースはどこにあるのか、そして誰のために作られたのかということです」と ポコ氏は語る。

2020年にNature Communications誌に発表された研究の一つに、フィリピンにおける猛暑による健康リスクを評価したものがあった。研究から国内で最も脆弱な都市は、貧困率が高く、若者と高齢者の割合が高く、対処能力や適応能力が低い都市であることが判明した。このような研究は、都市におけるUHIを削減するための取り組みには、脆弱なコミュニティ全体の熱リスクを下げる戦略を含めるべきであるというコンセンサスの構築を裏付けている。

2023 年、東南アジアの暑さ上昇の影響に対処する地域の取り組みを率いるため、熱耐性・パフォーマンス研究所 (HRPC) がシンガポールに設立された。HRPC はシンガポール国立大学に拠点を置き、スマートセンサーを使用して熱ストレスのリスクを持つ個人を特定し、健康状態、活動レベル、服装、環境に基づいて個別に介入策を提案する熱健康対応システムの開発に焦点を当てている。

アジアの政府の中にはUHIの影響を緩和するために積極的に取り組んでいるところがあるが、地域社会にも可能であれば変化を作り出すよう奨励する必要があるとポコ氏は述べた。そのための 1 つの方法は、戦術的都市主義を利用することである。これは、近隣地域や都市に有意義な市民の変化を生み出すための、迅速かつ低コストな行動指向のアプローチである。ポコ氏によると、たとえば、グリルフェンスがあるならば、そこに植物を吊るすことができ、するとプライバシーを確保しつつ生物量を増やして熱の影響を軽減することができる。このような取り組みは小さなことのように見えるかもしれないが、大規模に実行された時、政府機関が取り組むシステムは強化され、補完される。

「都市ヒートアイランドは炭鉱のカナリアに過ぎません。私たちが構築した環境を変えなければ、さらに多くの人が健康を害するでしょう」とポコ氏は語った。

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