【AsianScientist】AIが気候モデルの精度を高める

気候モデルを採用する国が増えるにつれ、研究者はモデルの精度と効率を改善しようとAIに注目している。(2024年6月27日公開)

気象には予測不可能な性質がある。気象は長い間、私たちの祖先の想像力と恐怖心をとらえ、神々の伝説として消えることなく語り継がれてきた。人類が風や雲の気まぐれな動きに秩序と支配の概念を定めようと奮闘する中で、ギリシャのゼウス、メソアメリカのケツァルコアトルから神道の雷神・風神まで、さまざまな神の形をとって文化の違いを超えて現れてきた。

精度や時間軸に差はあるものの、現代の予報は、地元の気象状況を予測する能力を持ち、気象にまつわる神秘性をある程度解き放っている。例えば、シンガポール気象庁は、2週間先までのかなり正確な予報を提供し、世界気象センターのAccuWeatherは、3か月先までの予報を発表している。精度が高く長期的な予報が可能であれば、個人や政府が前もって計画を立てるのに役立つだけでなく、物的損害や人命の損失を軽減することもできる。

加えて、人間の活動が地球に与える環境フットプリントは不可逆的であるため、さらに長い時間の中で気候がどのように変化するかを理解する必要性は世界的に高まっている。実際、国連気候変動に関する政府間パネルの第6次評価報告書によると、地球温暖化が加速するにつれ、破壊的な事象の組み合わせである複合気象現象がより頻繁に発生するようになるという。同報告書は、1日の最大降雨量や1日の異常高温のような典型的な気象現象でさえ、ここ数年で著しく激化していることを強調している。

適切な解像度

シミュレーションでは、地元の気象現象や変動を説明できなければならない。たとえば、10kmグリッドの空間的な気象パターンしか説明できないコンピューターモデルでは、小さな雲の形成や局地的な豪雨を特定することはできない。さらに、気候科学者はモデルの時間領域を考慮する必要がある。日常の歩行者にとって、一日の天気予報よりも一時間ごとの天気予報のほうが役に立つ。

シンガポールでは、気候研究センターと国立スーパーコンピューティングセンター (NSCC)が協力して、短期・長期的な考慮事項の両方に対処する気候研究を行っている。最近開始された国家第3気候変動調査 (V3) は、8 kmと2 kmという解像度で2100年までの降雨、温度、風、相対湿度を予測する。データは国民に気象情報を提供するだけでなく、海面、水資源、人間の健康、生物多様性、食料安全保障に関する国の計画の役に立つ。

このような複雑さと要求される解像度を考えると、気象の正確な姿を把握するためには、数十年にわたる複数のデータセットを組み合わせた高度に詳細なモデルが必要なのは当然である。モデルが複雑になればなるほど、計算資源も消費されるようになる。気候研究だけに特化したスーパーコンピューター施設もあるほどだ。世界のリーダーたちは今後の激動の時代に備え、アジア各地で気候専門の新しい施設を設立している。

昨年初め、日本のテクノロジー大手企業である富士通は、線状降水帯予測のために日本の気象庁に提供される新しいスーパーコンピューターシステムを発表した。ゆっくりと移動する積乱雲は大雨と雷雨をもたらし、地滑りや洪水のリスクを高める。新しいコンピューターは、アジア最速のスーパーコンピューターである富岳に似たハードウェアを備えており、精度が高い予測を迅速に行える。

インドでは、コンピューティング・ソリューション企業であるEvidenが、インド熱帯気象研究所および国立中期気象予報センターと協力して、2台の新しいスーパーコンピューターを提供している。計算能力が高まれば、仮想モデルの解像度が向上する。「現在、我々は4ペタフロップスのコンピューターを持っています」とラビチャンドラン(Ravichandran) 氏は説明した。「解像度を12kmから6kmに上げるには、18ペタフロップスを達成しなければなりません」

仮想地球と機械学習

気象研究用ハードウェアのアップグレードと並行して、いくつかの組織は、長期気候パターンの複雑性をモデル化するために使用される技術を調べている。来月の天候の予測だけでも相当な尽力を必要とするのだから、数年、数か月、さらには数世紀にもわたる気候の予測がどれほど大変なことであるかは想像できる。ハリス (Harris) 氏は、並々ならぬ努力が必要であると力説する。「それを本当によく理解するためには、文字通り、毎日毎日、何年にもわたってシミュレーションを続ける必要があります」

この問題に対処するために、研究者と企業はAIを使用して現在のモデルを増強することを検討している。 AIは、大量のデータを取り入れ、パターンを発見し、最終的にはかなり効率的かつ正確な予測を行うことが知られている。

現時点では、研究者はAIモデルが現在の気象モデルに完全に取って代わるのではなく、補完すると考えている。 「デジタルツイン」と呼ばれる現在の最先端の気象モデルは、地球の仮想ジオラマと地球の気象パターンを構築するコンピューター数値シミュレーションである。

「AIモデルの一部をトレーニングするには、データ入力のほとんどを数値を使うシミュレーションとするか、いくつかの代理モデルをシミュレーションする必要があります」

実際、デジタルツインとAIの予測をデイジーチェーン接続することを検討している研究者もいるという。つまり、シミュレーションを実行してAIにデータを提供し、その後AIを使って長期的な時間スケールで経済的な縦断的予測を行うのだ。

しかし、機械学習による予測モデルを訓練するためにシミュレーションデータを使用することの信頼性を疑問視する者もいるであろう。ハリス氏は、AIの予測と数値シミュレーションの両方について現実世界の事象との比較を繰り返し、その後、比較内容はモデルをさらに校正するために使用されるという厳しいチェックを行いバランスが保たれることを保証した。

NVIDIAは、フーリエ予測ニューラルネットワーク (FourCastNet) と名付けられた、独自のデータ駆動型気象モデルを管理している。画像処理によって加速され、1週間先の気象を予測するのに必要な時間は、NVIDIAの画像処理装置 (GPU) 1つでわずか1秒である。

Huawei Cloudによって開発されたPangue-Weatherは、別の革新的モデルである。2023年にNatureで公開されたPangue-Weatherは、従来の数値方法を上回る最初のAI予測モデルとして新境地を切り開く。

このモデルについては、2022年の40℃を超えるイギリスの夏のモデル化、2022年の暴風雨ユニスの進路追跡、2023年の台風ドクスリの進路追跡など、様々な重要な事象について広範囲な試験が行われ、顕著な成功を収めている。

2023年後半、Googleはこの分野の最新モデルであるGraphcastを発表した。40年にわたるデータに基づいて構築されたGraphCastは、従来の数値モデルよりも優れた性能を見せ、ハリケーン・リーの正確な進路追跡を行い、同年に発生したさまざまな異常な猛暑事象を実証してみせた。

このようなAIを利用する予測モデルは、若干異なるアーキテクチャに基づいて構築されているが、気象予測の分野でAIが優位に立つことは間違いない。3つのモデルはすべてオープンソースであり、チャートは欧州中期気象予報センターのウェブサイトで公開されている。

オープン予測革命

Nature誌に掲載された最近の論文でも強調されているように、活発な共同研究とデータ共有が、大規模な気候モデルを組み込むための要となるだろう。専門家たちは、国の気象・気候研究センターでAIが急速に普及していることに興奮している。

AIが気候モデルに統合されると、現在、気象モデルを実行するGPUの中には、以前はスーパーコンピューターが必要だった精度を得ることができるようになるものが出てくる。現在の最新モデルは大型化したパソコンでも実行できるため、天気予報は歴史上最も身近なものとなっている。

政府の場合、効率性の高いハードウェアを持つモデルがあれば、小規模な地域予報センターを持つことができる。新しいスーパーコンピューティング・センターに巨額の投資をすることなく、低コストで予報センターを設置することができ、しかもかなり正確な予測を行うことができるため、国民に優れた天気予報を提供できる。台湾は現在NVIDIAと協力し、気象事象が地域にもたらす影響について理解を深めている。

同時に、気候モデルがオープンソースになっているため、市井の研究者や学術界・産業界の研究者は、協力して次世代の気候モデルを開発することができる。

ハリス氏は、NVIDIAが開発コミュニティと緊密に協力し、ソフトウェアが迅速かつ効率的に動作するようにしていることを強調している。「我々は、最適化を支援し、モデルが容易に採用され、合理的なユースケースに適合するように微調整できることを確認するために、広範なコミュニティと関わっています」とハリス氏は語った。

速度と精度の高いモデルが出現し、気候科学用の既存の計算設備が向上したことにより、政府は気候変動対策における長期的な対策の影響をよく理解できるようになった。気候科学とモデルが新たに利用可能になったことで、気象学の前途は明るい。

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