2024年8月28日 JSTアジア・太平洋総合研究センター
科学技術振興機構(JST)アジア・太平洋総合研究センターでは、調査報告書『アジア・太平洋地域における電気化学デバイスの政策と研究開発動向―クリーンエネルギーの普及にむけて―』を公開しました。
以下よりダウンロードいただけますので、ご覧ください。
https://spap.jst.go.jp/investigation/report_2022.html#fy23_rr06
世界では、気候変動への対策や化石資源の枯渇への対応策として、再生可能なクリーンエネルギー(以下、クリーンエネルギー)の普及を通じた脱炭素化・低炭素化の取組が進行している。こうしたクリーンエネルギーの積極的な利用に必要な基盤技術の1つに、電気化学デバイス(electrochemical device)があり、世界の主要国は、電力の貯蔵・蓄積や水素製造・利用を進めるデバイスの研究開発競争を繰り広げている。近年、アジア・太平洋の主要国・地域でもその発展が顕著に見られており、その特徴を明らかにすることが急務となっている。本報告書では、電力貯蔵デバイスである「蓄電池」、電力を水素に変換しこの水素をさらに電力に再変換するための水素利用デバイスである「燃料電池」、水素製造デバイスである「水電解(水の電気分解)」という3つの電気化学デバイスに焦点を当てて、中国・韓国・台湾・インド・オーストラリアの5つの国・地域における政策と研究開発動向を整理し、アジア・太平洋の特徴を明らかにする。
第1章では、本調査の背景と概要(対象、手法、報告書の構成)について述べる。
第2章では、電気化学デバイス研究開発におけるアジア・太平洋の特徴について述べる。ここでは、電気化学デバイスの研究推進体制と主要政策、各国・地域で注力されている研究開発の状況について、5つの国・地域の比較を交えつつ整理する。併せて、各デバイスの研究開発を行うには、デバイスを構成する材料研究や各デバイスの動作メカニズムの基礎をなす学理の追求が重要となるが、これらを支える高度な計測・評価基盤および計算基盤を提供する大規模研究インフラを紹介する。最後に、関連する学術分野の論文データを用いて、電気化学デバイスの研究開発に取り組む研究人材の分布状況を俯瞰する。
第3章では、アジア・太平洋の主要国・地域における電気化学研究開発の推進政策について述べる。上述の5つの国・地域ごとに、まず全般的な科学技術イノベーション推進体制と資金配分・フローを整理し、続いて電気化学に関連する主要な政策と主要研究プログラムを述べる。各国・地域では、「蓄電池」については、リチウムイオン電池やリチウム硫黄電池の研究開発を中心に競争が繰り広げられ、その研究成果は各国・地域政府の手厚い支援の下で相次ぎ電気自動車等の商業利用に供されている。また、クリーンエネルギー社会実現のために、全固体電池、ナトリウムイオン電池をはじめとする次世代電池デバイスの研究が強力に進められている。「燃料電池」については、自動車産業を念頭に置いた固体酸化物燃料電池等の研究開発が進められ、一部は実用化に至っているが、商業レベルでの大規模実用化には至っていない。「水電解(水の電気分解)」については、蓄電池や燃料電池ほどに多額の資金を投じた研究開発は行われていないが、中国・インド等の一部の研究機関では優れた成果が発表され、クリーンエネルギー供給インフラの整備と共に、将来的にクリーンエネルギー由来の水素を利用することが目指されている。