【AsianScientist】 「CAR-T細胞療法」はがんとの戦いに期待が持てる

CAR-T細胞療法は、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療に効果的な代替療法となりつつあり、再発性または難治性患者の転帰を改善しつつある。(2024年10月30日公開)

医学は絶えず進歩しており、新しい治療法がすさまじいスピードで研究され、導入されている。悪性血液がんの一種であるびまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫 (DLBCL) のような最も複雑な疾患についても同じことが言える。通常、再発性または難治性の DLBCL の標準治療には、化学療法や造血幹細胞移植などといった集中治療が続けて行われる。最近では、広範な研究開発を通じて、キメラ抗原受容体 (CAR) T 細胞療法が有望な新しい治療オプションとして登場し、従来の治療では不十分であった患者に対する効果の高い代替手段となっている。

CAR-T細胞療法は、身体が持つ免疫細胞を利用してがん細胞を標的とし、排除する。これは個別化アプローチであり、患者の T 細胞を研究室で変化させることでがん細胞の認識・標的・攻撃を効果的なものにする。精密医療の代表的な例であるCAR-T 細胞療法は、従来のがん治療で実施される画一的な手法とは異なり、再発性または難治性の大細胞型B細胞リンパ腫患者の転帰の改善を証明するレベルの特異性を示している。

CAR-T細胞療法を治療の早期段階に使用すれば、DLBCL 患者の予後を良い方向に変えることができる。あるピボタル試験によると、CAR T 細胞療法を三次治療以降の治療ではなく二次治療として受ける患者は、その後の介入が少なくなる傾向が見られる。これにより、患者の生活の質が向上するだけでなく、治療経路が合理化されるため医療システム全体の負担も軽減される。

ミッキー・コー教授はCAR-T細胞療法を進める際に医療従事者が考慮すべき要因について語る
(写真:Kite Oncology)

英国ロンドンの聖ジョージ大学病院の腫瘍学血液内科の臨床部長であるミッキー・コー (Mickey Koh) 教授は 「重要なことですが、アキシカブタゲン・シロロイセル (axi-cel) など、二次治療で全生存率を高めることが示されている治療法は、後の治療段階に延期すべきではありません」と述べる。「このタイミングは、不幸にも臨床状態が悪化したり、衰弱しすぎて治癒に必要な集中治療を継続できなくなる多くの患者にとって重要です」

CAR-T細胞療法が徐々に広まりつつある中、すべてのCAR-T細胞療法が同じわけではないことを理解する必要がある。各療法は独特の特徴、有効率、安全性プロファイルを持ち、それらは患者のリンパ腫の種類、全身の健康状態、病気の段階によって大きく異なってくる。

「CAR-T細胞療法の選択では、奏効率、毒性プロファイル、各医療機関のCAR-T細胞の使用に関する臨床経験など、いくつかの要因に基づき正しい判断を行います。治療の緊急性が最優先であり時間が重要となる切迫した状態の場合、ターンアラウンドタイムが早く製造プロセスに信頼のおける製品が望ましい選択肢となります。患者に最も適したCAR-T細胞製品を選択するために、臨床医は最終的に多くの要因のバランスを取り、十分な情報に基づいた決定を下さなければなりません」とコー教授は付け加えた。

複数のCAR-T細胞療法を利用できるならば、患者ケアに柔軟性が生まれる。供給の問題は軽減され、ある療法が患者の病状に適さなくても代替オプションを提供できる。治療オプションにこのような多様性があれば、それぞれの患者は自身のニーズに合った最も適切なケアを受けることができる。

現在、axi-cel、チサゲンレクロイセル (tisa-cel)、リソカブタゲン・マラルユーセル(liso-cel) という3 つの CAR-T 細胞療法が成人DLBCL患者の治療薬としてさまざまな国で承認されている。これらの療法は、国で承認されている適応症に応じて、再発性または難治性の成人 DLBCL患者が二次治療または三次治療として受けることができる。これらの療法の結果は依然として有望であり、axi-cel の臨床試験では、治療を受けた DLBCL 患者の2年後を標準治療を受けた患者と比較すると、病気の進行や新たながん治療の必要もなく生存する可能性が 2.5 倍高いことが示されている。

CAR-T 細胞療法の将来は有望ではあるが、利用のしやすさがやはり問題の核心となっている。複雑な製造プロセス、高いコスト、限られた数の認定医療機関などがあることから、すべての適格患者がこの療法を簡単に利用できるわけではない。医療インフラがあまり発達していない地域に住む人の多くは、専門の医療機関まで行かなければならず、それ自体が大変なこととなっている。

コストの問題はあるものの、CAR-T細胞療法は、大細胞型B細胞リンパ腫患者の特に二次治療、三次治療さらにはそれ以降の治療法において、奏功率と生存率を大幅に向上させていることが臨床データにより示されている。

コー教授は「これらの研究結果から、CAR-T細胞療法には患者の転帰を改善する大きな可能性を秘めていることが明らかであり、従来の標準治療よりも大きなメリットがあります」と述べる。

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