【AsianScientist】アジアで成長を続けるフェムテック

アジアで成長を続けるフェムテック市場は、女性が妊娠出産に関する健康を管理できる力を与えている。(2024年11月14日公開)

1990年代後半にインドで育った当時12歳のシャヨニ (Shayoni) さん(本記事では身元保護のため名前を変えている)は、耐え難い生理痛で意識を失うことが珍しくなかった。医師や大人からは「ほとんどの女性に起こる自然なこと」として軽く扱われ、彼女はその後20年間、体を弱らせるほどの痛みに毎月耐えなければならなかった。現在35歳のシャヨニさんが夫と海外に移住し、子供が欲しいと医師に相談したとき、初めて根本的な原因が子宮内膜症であることを知った。

子宮内膜症は子宮の内膜に似た組織が子宮の外で増殖する病状で、骨盤部の慢性的な痛み、月経時の出血過多、妊娠しにくいなどの合併症を引き起こしかねない。世界中で約2億4,700万人の女性が子宮内膜症を患っており、そのうち約4,200万人はインドに住んでいる。この症状は初潮時に始まり、閉経まで続くことがある。治療法はないが、薬を使うことで、あるいは場合によっては手術で症状を抑えることができる。この症状は、妊娠を希望する女性の精神的健康にも大きな影響を与えることがある。

シャヨニさんは、子供を持ちたいと考えると、直ちに排卵周期を調べることのできる人気アプリを使い始めた。しかし、すぐに、そのアプリは子宮内膜症などの婦人科疾患を持つユーザーを考慮しておらず、排卵日の予測が不正確であることに気がついた。このため、彼女はストレスを抱え、混乱した。その後、彼女の夫は、子宮内膜症によって引き起こされる症状と異常を考慮したPremomという別のアプリを偶然見つけた。「これにより、排卵周期を安心してたどることができるようになりました」とシャヨニさんはAsian Scientist Magazine誌に語ってくれた。「今では、自分の健康と妊活をうまく管理できていると感じています」

アジアにおけるフェムテックの台頭

Premomのようなアプリは、広くは「フェムテック」というカテゴリに分類される。これは、デンマークの起業家であり、月経予測アプリClueのCEOであるイダ・ティン (Ida Tin) 氏が2016年に作った造語である。ケンブリッジ辞典によると、フェムテックとは、女性の健康に関連する電子機器、ソフトウェア、その他のテクノロジーを指す。

米国に拠点を置く情報分析会社FemTech Analyticsは、2020年の世界のフェムテック市場の規模は402億米ドルであるが、平均13.3%の成長率で2025年までに751億米ドルに達すると予測している。インド商工会議所連合会は、少なくとも18%の女性が月経障害に悩まされているインドだけでも、フェムテック市場は2024年末までに40億米ドルに達すると予想している。

FemTech Analytics社のディレクターであるケイト・バッツ (Kate Batz) 氏は日経アジア誌に対し、「コロナ禍も一因となってヘルスケアの大規模なデジタル化が進み、フェムテック業界には大きな期待が向けられています。女性の健康改善を目的としたテクノロジーが次々と作られているのです」と語った。

日本のルナルナ、中国のMeet You、インドのMayaなどのアプリは、妊娠可能期間を記録し、妊娠の段階を観察したいと考えるアジアの女性の間でますます一般的になってきている。ムンバイで活動する34歳のタラ (Tara) さん(彼女の名前も身元保護のため記事では変更されている)は、生理を記録し、毎月の妊娠可能期間を予測するために、Floというインドで人気のアプリを4年間使用している。「妊娠してからは、このアプリを使って、妊娠中の3か月間ずっと赤ちゃんの成長を記録しました。赤ちゃんの成長を見るのが楽しみでした。赤ちゃんの毎週の成長をアプリがわかりやすく説明してくれたのが気に入っていました。妊娠期間は、全く違うものになりました」と彼女は語る。「普段はアプリにお金を使うことはありませんが、このアプリには使いました。少し高価ですが、本当に価値があります」

一方、中国では、2013年に発表されたMeet Youアプリが、単なる生理カレンダーから巨大ソーシャルメディアへと進化した。アップルのApp Storeによると、このアプリのユーザーは3億人を超えている。女性はこのアプリを使って月経周期を調べ、健康製品を購入し、病院予約をすることができる。Meet Youのオンライン・マーケットプレイスでは、妊婦用ビタミン剤からバイブレーターまであらゆるものを購入できる。また、HPVワクチンの申し込みや婦人科の予約も可能である。

現在、フェムテックのイノベーションは月経用アプリや不妊治療用アプリを超えて、さらに多くのヘルスケアサービスに広がっている。インドネシアのアプリであるHalodocは、遠隔医療サービス、薬の宅配、在宅検査、医師によるバーチャル診断を提供し、女性のヘルスケアサービス利用度向上に貢献している。シンガポールの総合的な健康アプリであるShe's Wellは、女性の身体・精神・感情の健康に関連するサービスを提供している。

ジョティ・バジパイ (Jyoti Bajpai) 氏は、インドの私立グループ病院の一つであるアポロ病院の医療精密腫瘍学の主任コンサルタントである。彼女は、このようなアプリを使う女性は、自分自身が健康管理を決定している感覚を持てると語る。しかし、バジパイ氏は、特にユーザーが多嚢胞性卵巣症候群や子宮内膜症などの病状を抱えている場合は、これらのアプリに過度に依存しないようにと警告する。

バジパイ氏は「すべてのアプリが各自に合った結果を出すわけではないので、子宮内膜症などの既往症がある場合は婦人科医に相談することをお勧めします」と述べた。

フェムテックへのアクセスは限られている

しかし、すべての女性がフェムテックの恩恵を受けるわけではない。2023年のJournal of Gynecology & Obstetrics誌の報告は、低所得国の4,400万人以上の女性はフェムテックのサービスにアクセス不可能であると語っている。

このギャップを埋めるため、ますます多くの企業が医療従事者、保険会社、雇用主、その他の組織と提携し、より多くの人々に訴えて自社ソリューションの採用を促進するようになってきている。シンガポールのフェムテック・アソシエーション・アジアの創設者であるリンゼイ・デイヴィス (Lindsay Davis)氏 によると、東南アジアのフェムテック企業のうち、77%は過去5年間に設立されたという。

「不妊治療への注目も高まっており、Zora Health(シンガポール)、PLans(インド)、Lumirous(マレーシア)などの企業が、排卵カレンダーアプリ、自宅でできる不妊治療検査キット、消費者と不妊治療の専門家やリソースを結びつけるプラットフォームなどといった革新的なソリューションを開発しています」とデイヴィス氏は述べた。

デイヴィス氏は、東南アジアでは生理ケアがフェムテックの主要カテゴリーであることに変わりはないが、起業家たちはすでに女性とその家族対して妊娠出産を支援するために、フェムテックの製品ラインナップを拡大し始めていると付け加えた。

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