【調査報告書】『新興技術政策の国際動向とアジア・太平洋における国際協力』

2025年4月1日 JSTアジア・太平洋総合研究センター

科学技術振興機構(JST)アジア・太平洋総合研究センターでは、調査報告書『新興技術政策の国際動向とアジア・太平洋における国際協力』を公開しました。
以下よりダウンロードいただけますので、ご覧ください。
https://spap.jst.go.jp/investigation/report_2022.html#fy24_rr02

エグゼクティブ・サマリー

国家の経済発展と安全保障、世界共通課題の解決における重要な「新興技術」への関心が近年著しく高まっている。その開発と利用のため、主要国・地域は激しい競争を展開している。そのため、本調査報告書は、新興技術政策とアジア・太平洋における国際協力に関する情報を収集し、整理した。アジア・太平洋だけでなく世界における主要国・地域を対象とし、わが国とアジア・太平洋地域との科学技術協力の基盤構築に資することを目指した。なお、国・地域によって、新興技術、重要技術、重要新興技術など様々な用語が用いられているが、本調査報告書では国・地域が固有に表現する場合を除いて、「新興技術」を用いる。

調査対象とした国・地域の結果概要は以下の通りである。

中国は、科学技術の「自立自強」の方針の下、重要新興技術の国内育成を強調している。「8大新興技術産業」と「9大未来産業」を定め、支援を強化している。国際協力においては、「人類運命共同体」という概念を打ち出し、国際協力・交流の強化に積極的な姿勢を見せており、世界の科学技術の発展に「中国の力」を加え、中国と世界の科学技術の発展に貢献すべきだとしている。

インド政府がこれまでに公表した政策文書において、新興技術については具体的に定義されていないが、2021年以降、AI、量子技術、半導体、情報通信技術、バイオテクノロジーに関する国家戦略文書がそれぞれ策定されている。国際科学技術協力は、民主的価値を共有する西側諸国と主に進めており、二国間だけでなく多国間の枠組みにも参加している。

韓国では重要・新興技術について自国の技術競争力の確保と技術保護の観点からアプローチしている。韓国政府は2022年に新技術・新産業の創出など将来革新の基盤となる12の技術を国家戦略技術として位置づけ、重点投資を行っている。一方、自国の産業・技術の保護の観点から関連法制度を強化し、重要技術を指定し流出防止を進めている。さらに重要・新興技術におけるグローバルリーダーシップの構築に向けて、国際共同研究や研究人材の協力・連携を拡大している。

オーストラリアは世界から高度人材を引きつけているが、地政学的変化に伴い、大学への外国干渉規制とともに、重要技術の育成と保護に関する政策を進めている。特定国からの入国審査の厳格化や国際共同研究実施等のリスク評価による大学等研究機関での自主規制の実施のほか、AI技術、量子技術、バイオテクノロジー、クリーンエネルギー生産・貯蔵技術といった重要技術の定義やリストを作成し、この分野の重点的な育成支援やビザ審査の厳格化などに活用している。また、AUKUSや同志国とは重要技術の研究協力や成果の利用において連携を強化している。

ASEAN加盟国では、AIをはじめとする先端的なデジタル分野を重要新興技術と認識し、関連国家戦略を策定している。また熱帯資源を活かしたグリーン分野も重視されている。AIに牽引され、医療・農業・バイオテクノロジーのスマート化が進んでいる。中国の関与が強まるなか、EUを含む西側諸国もASEAN加盟国と国際協力を進めており、これらを基盤としたASEAN加盟各国における科学技術の自律的発展が期待される。

米国はトランプ政権下の2020年に「重要・新興技術(CET)国家戦略」を策定、20の優先技術分野を指定し、2年毎に技術リストを更新している。AI・量子・バイオなど個別技術分野毎の振興施策や標準化戦略、国防科学技術戦略で技術開発の促進を図り、輸出管理・投資規制など経済安保対策でCETの保護に努めている。中国とロシアを戦略的競争相手と位置づけ、技術流出対策に注力する一方、同盟国・パートナーとの連携強化により技術基盤の強化とサプライチェーンの強靭化を目指している。重要・新興技術の国際協力では、特にAI・量子技術分野においてG7各国やEU、豪州、韓国など同盟国との二国間連携を推進しつつ、インド、ベトナム、シンガポールとの関係強化にも積極的である。バイデン政権下では、QUAD、AUKUS、米日韓経済安保対話など多国間枠組みの下でも、CET分野の協力に進展がみられた。

英国は、スナク政権下の2023年に「科学技術枠組み」を策定し、自国の戦略的優位を構築するために注力すべき5つの重要技術を特定した。5つの重要技術の開発と活用に関する戦略的決定は、「所有-協働-アクセス」の枠組みを利用して行われる。そして、科学技術超大国の実現のため、「科学技術枠組み」に示された計画の下、5つの重要技術分野別戦略を体系的に整備している。さらに、「英国国際技術戦略」において、5つの重要技術とそれらを支えるデータを対象に英国が取るべき行動とその指針が示されている。国際科学技術協力については、同盟国や同志国を中心とした国際パートナーシップを重視し、重要技術に関する国際秩序の形成を積極的に図っている。

ドイツ政府は新興技術について定義していないが、「キーテクノロジー」や外国直接投資通知義務対象技術として、半導体、AI、グリーン技術、バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、防衛技術などを挙げている。また、価値を共有するパートナーとの重要分野における科学技術協力を強化する一方、中国との協力関係の見直しを進めるなど、リスクと機会のバランスのとれた協力のあり方を模索する姿勢を見せている。

フランスは量子技術やAIなどの重要技術を特定して、戦略的に科学技術イノベーション政策を推進している。国際的には、価値と長期的なビジョンを共有できるパートナーとの研究協力を重視している。重要技術の保護と外国干渉の排除のため、諜報、国家機微情報の保護に加えて、国家の科学技術潜在力の保護するための厳格な体制を、官民が協力して構築している。

EUは2023年に勧告を発表し、加盟国に対し、経済安全保障上重要な10の技術を特定して、加盟国にさらなるリスク評価を求めている。10の技術分野のうち4つは、技術セキュリティと技術漏洩に関して最も機微で差し迫ったリスクをもたらす可能性が高いと考えられている。研究・イノベーションの国際協力に関する原則と価値観の共有を多国間で図る一方、外国干渉への対処と研究セキュリティの強化にも取り組んでいる。EUは文化や歴史などの多様性を尊重しながら、価値を共有するパートナーシップの拡大に努めている。

新興技術を巡るアジア・太平洋における国際協力をより広く深く発展させるため、本調査報告書が広く関係者の一助となり、新たな協力を開始する上での貴重な示唆となることを期待したい。

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