Asian Scientist Magazineは毎年、アジアのSETM分野で最も優秀かつ聡明な研究者及びリーダーを厳選し、「アジアの科学者100人」を発表している。これは今年で10周年を迎える。(2025年9月19日公開)
Asian Scientist Magazineは、「アジアの科学者100人(2025年版)」を発表した。同誌はアジアの優秀な科学者を紹介してきたが、今回号で10年という節目となる。今年は、研究者やリーダーとして、科学の限界を押し広げ、人々と環境を守ることにキャリアを捧げてきた受賞者を掲載している。
2024年には、ベトナム戦争で使用された枯葉剤の永続的な影響や石炭採掘権に異議を唱え森林と先住民族コミュニティを守るなどといった重要な問題に果敢に取り組み、堂々と立ち向かった多くの研究者が表彰された。
今年の受賞者はバングラデシュ、中国、香港特別行政区、インド、インドネシア、日本、マレーシア、ネパール、パキスタン、フィリピン、シンガポール、韓国、スリランカ、台湾、タイ、ベトナムなど、多彩なものになっている。
「アジアの科学者100人」(2025年版)では、研究と教育において男女平等を推進しつつ、各分野で優れた業績を出した女性科学者を取り上げている。例えば、2024年度ロレアル-ユネスコ女性科学国際賞(アジア太平洋地域)を受賞した清華大学(中国)のニエン・ヤン (Nieng Yan) 教授は、複数の膜輸送タンパク質の構造を解明した研究が評価され、表彰された。彼女の研究は膜輸送たんぱく質を詳しく解明し、てんかん、不整脈、疼痛症候群などの疾患の治療法を進歩させた。教授として、彼女はSTEM分野における女性の採用と定着を図るための支援環境の重要性を常に訴え続けてきた。
インドネシアのアチェ森林自然環境財団 (HAkA) の会長であるファルウィザ・ファルハン (Farwiza Farhan) 氏は、活動を通して女性を直接支援している。スマトラ島のルセル生態系の保護を行うHAkAの活動を率いたことが評価され、ラモン・マグサイサイ賞を受賞した。ルセル生態系では、サイ、トラ、ゾウ、オランウータンが自然の中で共存している。HAkAは、地域社会と女性が力を得て自らの未来を守ることも目指している。HAkAはそのプログラムを通して女性たちにパラリーガルや市民ジャーナリズムの研修を実施し、また、森林地帯をパトロールして密猟や違法伐採を監視するレンジャーグループを率いる機会も提供している。
10回目となる「アジアの科学者100人」は、気候変動との継続的な世界的な闘いにおいて前進を遂げている先駆者たちにも光を当てている。日本の桐蔭横浜大学の宮坂力教授は、ペロブスカイト太陽電池の吸収材となる有機鉛ハロゲン化合物を発見し、太陽電池の効率性向上に結びつけた功績が認められ、受賞した。彼の研究は、世界のカーボンニュートラル目標の達成に大きく貢献すると期待されている。
環境保護活動家のアロック・シュクラ (Alok Shukla) 氏は、インド中部の生物多様性に富んだ44万5000エーカーの森林を21の炭鉱計画から守る地域キャンペーンの中心となって活躍したことが評価され選ばれた。鉱物資源に恵まれたチャッティースガル州で幼少期を過ごしたシュクラ氏は、そこで採掘産業が環境的・社会的損害を与えていることを目の当たりにし、それが活動を始めるきっかけとなった。現在、彼は先住民コミュニティと緊密に協力し、先住民の森林と土地の権利を守っている。
ストックホルム水大賞の受賞者であり東京大学総長特別参与である沖大幹教授も「アジアの科学者100人」の一人である。沖教授は、実践的な気候適応戦略、人間活動の水循環モデルへの統合、そして世界の河川流量シミュレーションの精度向上を通じた持続可能な水管理への貢献が認められ、世界水週間中の一環であるストックホルム水大賞を授与された。彼は水文学の科学的側面と水政策、社会問題、学際的研究との緊密な連携を推進し続けている。
「アジアの科学者100人」に選出されるには、2024年に国内賞若しくは国際賞を受賞していること、又は科学的発見もしくは科学事業の指導において、著しい成果を上げていることが条件となっている。
今年は、多様性と公平性を兼ね備えた「アジアの科学者100人」の選考を助けてくれたAsian Scientist Magazineの国際諮問委員会に特に感謝したい。
Asian Scientist Magazine社のCEO兼発行人であるジュリアナ・チャン (Juliana Chan) 博士は「アジアの研究者たちがこの10年間に達成した素晴らしい研究成果にスポットライトを当てることができ、とても嬉しく存じます」と語る。「私たちはこの取り組みを今後も継続し、次世代の若き研究者たちに刺激を与えていきたいと思います」