「遺伝子から衛星、ビッグデータを活用」 アジアの農業に躍進的なイノベーション

アジアの急速な経済成長は、気候変動のような脅威に対する脆弱性を内包しつつ、各国で躍進的なイノベーションを促している。

Asian Scientist - アジア地域の大規模な経済成長は、現在のアジアにおける農業と環境科学に大きな期待をもたらしている。アジアの人口と所得は過去20年間で飛躍的に増加し、地域のサプライチェーンは世界の生産ネットワークとこれまで以上に密接に関わり合っている。空気、土壌、水、動物、植物といったアジアの資源は、需要に追い付こうと必死だ。

その一方で、この地域ではイノベーションの必要性にも迫られている。なぜならば、アジアの農業は一般に、他の地域よりも1ヘクタールあたりの食料生産量が少なく、海面上昇のリスクが肥沃な沿岸地域の石油の塩分濃度に影響を及ぼすなど、気候変動の影響も受けやすいからだ。

この数年間、多くのサクセスストーリーが誕生し、こうした実績は科学技術の可能性への期待を高めている。2014年、IBMと北京市環境保護局(EPB)が合同で開始した「グリーンホライズン・プロジェクト」は、同市における大気の質の改善を目指すものだ。IBMの予測モデルは、IOT(Internet of Things)、ビッグデータや機械学習を駆使する。これによって、EPBが取り組む汚染のモニタリングと影響評価を改善させるとともに、都市交通、建築活動、発電を抑制する施策も推進した。グリーンホライズン・プロジェクトを通じて、北京市では微小粒子状物質(PM2・5)を1年間で20%減少できた。IBMはこうした技術を中国で育み、現在は他国でも展開するようになった。

フィリピンでも成果が出ている。フィリピン大学ディリマン校のゲイジェーン・ペレス(Gay Jane Perez)准教授は、衛星データを活用して農業生産量を改善する方法を先駆的に行った。フィリピン初の衛星打ち上げ成功にもかかわったペレス准教授は、植生、地表温度、降雨量、土壌水分といったパラメータを調べるために衛星データを使用し、干ばつの影響の予測を可能にした。ペレス氏の研究には、干ばつが時間とともにどのように変化していくかについての評価も行い、干ばつの予測やその緩和対策に有益な情報をもたらしている。

こうした規模の大きなプロジェクトと並行して、小規模で独力によるプロジェクトもアジア全域に数多く存在しており、今後成長してこの分野に大きな影響を及ぼす可能性がある。例えば、日本のインテグリカルチャーやシンガポールのシオック・ミーツ(Shiok Meats)のような「クリーンミート」を扱うスタートアップ企業は、肝細胞から培養肉を育てる実験などを行っている。こうした取り組みは、資源の枯渇問題のほか、人獣共通感染症や薬剤耐性の蔓延の軽減につながる可能性がある。

中国科学院 遺伝・発生生物学研究所の教授兼主任研究員である李家洋(Li Jiayang)氏は、アジアの食料供給の弾力性を高めることを熱望している。李氏は、高収穫量で、ストレス耐性があり、資源効率に優れた新種の稲と天然ゴムを育てるための、植物の発育と代謝に関する分子遺伝学に焦点を当てた研究を進めている。

インドネシアのセベラスマレット大学の講師(化学)のウイトリ・ワヒュ・レスタリ(Witri Wahyu Lestari)氏は、アジアにおいて化石燃料への依存度を軽減したいと考えている。レスタリ氏は環境保護、エネルギー貯蔵、薬物送達に使用できる機能的でハイブリッドな浸透性素材を開発した。また同氏は、パーム油からグリーンディーゼル(非化石の再生可能なエネルギー源から生産された燃料)を取り出すことに関連して新たな触媒をデザインする研究で受賞歴もある。

「私は自分の研究が社会をより良く変え、とりわけ環境維持、代替エネルギー源、生体臨床医学の分野で国際的なインパクトをもたらすことを希望しています」(レスタリ氏)

アジアでは、国家の最高機関から最小レベルの研究所に至るまで、イノベーションが絶え間なく起きており、農業や環境科学の分野に刺激をもたらしている。

アジアにおける刺激的な研究開発の詳細は、Five Years Of The Asian Scientist 100にて公開されている。以下のイラストは農業、環境科学分野における受賞者の地理的分布を示している。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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