アジアのバイオメディカル、大きな賭けが実を結ぶ

委託研究やジェネリック薬の製造が主流だったアジアのバイオメディカル研究者は、いまや世界最先端の技術革新を担うようになった。

AsianScientist 現在のバイオメディカルサイエンスでアジアは、おそらく世界で最も活気のある地域だろう。アジアには他の地域にはないような所得水準、民族性、職業、伝統、事業環境、規制環境がみられる。こうしたことは経済、社会、技術のそれぞれの力が融合した結果といえる。

(欧米の)大手製薬会社の市場としての、アジアの重要性が高まっていることに目を向けてみよう。これはアジア地域の広範囲な経済成長とともに生じた変化である。この変化が、アジアの地域への資本、人材、そしてバイオメディカルのノウハウのさらなる流入を促した。大手製薬会社はいまや、欧米以外の消費者を対象に薬を開発することが道徳的な義務であるだけでなく、高い利益を生むチャンスであることも認識している。

こうした競争環境の中でアジアのバイオメディカル企業は進化し、委託研究の実施やジェネリック医薬品の製造から、この分野の最先端の技術革新へとバリューチェーンの変化を加速させている。Bioconの会長兼社長キラン・マズムダルショウ(Kiran Mazumdar-Shaw)氏によれば、インドでは長い間、患者数が膨大であることから、臨床研究よりも臨床業務が優先されてきたという。しかし今では、研究エコシステムに不可欠な差別化されたデータセットを構築するため、より幅広い取り組みが行われるようになったとして、次のように話す。

「模倣的な研究からオリジナルな研究への大きな変化を目の当たりにしてきました。研究主導の経済において、これは非常に重要なことです」

バイオメディカル研究の有力地域としてのアジアの台頭は、(インターネットを使った)グローバルなイノベーションネットワークの重要性も反映している。それによって、アジアに拠点をおく研究者は、これまでは不可能だった方法で世界の動向を把握できるようになった。

成熟細胞を幹細胞のように機能するための変換が可能であることを発見し、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学の山中伸弥氏は、「科学の中心地」たる米国との関係を維持する重要性を強調する。山中氏の研究は、とりわけ細胞ベースの治療やバイオメディカル研究の分野において、大いに期待されている。

科学技術に対する政府の関心の高まりとそれに伴う研究費の増加は、化学病理学の研究者でその発見により無侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT)産業を誕生させたデニス・ロー(Dennis Lo)氏のような、バイオメディカルの研究者にも恩恵をもたらしている。

ロー氏は、1997年に英国から故郷の香港に戻った。そして、母体の血漿および血清から安定した十分な量の胎児DNAを抽出できることを発見した。ロー氏のNIPTのポートフォリオは、香港中文大学に譲渡され、その後、SequenomやIlluminaといった企業にサブライセンスされた。

アジアにおける新しいテクノロジーへの一般的な関心の高さは、バイオメディカルサイエンスで、3Dプリント、人工知能(AI)、ブロックチェーンといった新興技術がいちはやく活用されるであろうことも示唆している。例えば、ブロックチェーンは、デジタル資産を安全に共有できるようにすることで、研究とイノベーションの広大なネットワークの中で関係者間の連携を加速させる可能性を秘めている。

AIは、オーダーメード医療の時代にはとりわけ重要となる創薬や診断の促進のためにすでに活用されている。中国のTencentは、独自のAI医療イノベーションシステム(AI Medical Innovation System、AIMIS)を国内の10以上の病院に導入した。AIMISは、食道がんで90%以上、肺サルコイドーシスで95%以上、糖尿病性網膜症で97%以上という予備診断の精度が実証されている。

アジアのバイオメディカルサイエンティストは、未来を見据えると同時に過去にも目を向け、従来の治療法や知識の蓄積を現代医学にどう応用できるかを見定めている。

その模範的な例が、四世紀の中国の文献を用いることで、1972年にアルテミシニンを発見したトゥ・ヨウヨウ(Tu Youyou)氏である。この発見は、2015年のノーベル医学・生理学賞の受賞につながった。最近の例としては、1800年前の製法に基づく4種類の薬草を使用した漢方処方PHY906があり、化学療法の副作用を緩和しながら抗がん活性を高めることが実証されている。

農業から物理学まで、アジアにおける科学の情勢については、ホワイトペーパー「Five Years Of The Asian Scientist 100」で詳細を確認できる。
Asian Scientist Magazine(外部サイト): Five Years Of The Asian Scientist 100
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