スーパーコンピューターで数十年先の気候変動も高速処理

スーパーコンピューターは、短期的な気象予測から今後数十年間に及ぶ気候のシミュレーションまで、地球の未来を垣間見せてくれる。

AsianScientist - 昨年3月に世界の多くの地域でロックダウンが開始されると、商店はシャッターを降ろし、人々は自宅に閉じこもり、道路からは車が消えた。バンコクからデリーまで、都市部の空気はきれいになり、青空の下で日の光を浴びられるようになった。

世界各地の外出禁止令によって、炭素排出量(特に交通による排出量)は大幅に削減されたと思われるかもしれないが、もう一度考えてみてほしい。排出量は4月までに17%減少という前例のない値に達したものの、科学者らはこのような著しい変化は一時的なものにすぎない可能性が高いと指摘している。結局のところ、経済活動が実質的に停止していても、家電から工場まで、あらゆるものによって引き続き温室効果ガスが排出され続けている。

エネルギーシステムや産業を広範に見直さない限り、通勤を減らす、あるいはリサイクル量を増やすといった個人行動の変化があっても、与えるインパクトは微々たるものに過ぎない。しかし、産業活動が環境に与える影響を一体どのように定量化すればよいのだろうか? 地球の温暖化にうまく対処できるようになるために、世界の温暖化をどのように可視化すればよいのだろうか?

これを解明するために、科学者らは気候の「スナップショット」のようなデータを集め、気温から気圧、海面まで、あらゆるものを測定している。このような大量のデータには、現在から数十年後の世界の予言となりうるものが隠れている。大量のデータを迅速に処理できる強力なスーパーコンピューターを使うことで、未来を解き明かすことができる。太陽の光が降り注ぐシンガポールの天気を予想するにしても、この地球全体の傾向を理解するにしても、私たちが故郷と呼ぶこの惑星の膨大なスケールと複雑性を把握するために気候学者が必要とするのはスーパーコンピューターだ。

惑星をコンピューターに当てはめる

数十年前、最も原始的な気候モデルでは、地表温度の変化しか計算できなかった。エネルギーバランスモデルと呼ばれるこれらのモデルは、太陽から地球の大気圏に入射するエネルギーと、宇宙に放出される熱のバランスしか検討できなかった。

今日、エネルギーバランスモデルを改良した後継の地球システムモデルは大気、海、陸地、氷の間における熱伝達や空気・水の流れ、炭素・窒素の循環などの生化学的過程、さらには産業活動の影響など、格段に多くのことを検討できるようになっている。

そのようなモデルの一つである米国エネルギー省のE3SM(Energy Exascale Earth system model)はスーパーコンピューターを活用し、地球の気候を様々な位置で再現し、時間の経過による気候の進化を予測している。

気候システムは非常に大きく複雑なため、最も洗練されたモデルでさえ風速、気圧、気温、湿度を地球上のすべての地点で計算することができない。

そのため、気候モデルでは、全球をグリッドセルと呼ばれる多数の三次元のボックスに分割している。驚くべきことに、古いモデルでは解像度が数百キロメートルであったのに比べて、E3SMは15~25キロメートルという高解像度で気候を捉えることができている。

すべての生物地球化学的な過程を適切に考慮するために、E3SMでは特化したモジュールによる膨大なネットワークも必要としている。熱帯雨林から河川系まで、各モジュールは環境をマッピングしている。

各システムや生物地球化学的過程は複雑にからみ合って互いに影響し合うため、科学者らは、植物が水の循環に及ぼす影響から、地表温度の変化が雲の形成に与える影響まで、あらゆる事柄を考慮しなければならない。

そのような詳細におよぶモデリングのおかげで、E3SMは近い将来の気候変動の影響、中でも特に人命や財産、沿岸部のインフラを脅かす最強の台風・暴風雨の形成と影響について予測することができる。これは、避難のための事前警告を発するほか、災害対応のためにネットワークの停止を可視化し、強靭なインフラに向けた投資を導くためにも役立つ。

曇りとモンスーンの恐れ

労働者の42%が生計を立てるために農業に依存しているインドでは、スーパーコンピューターが農家によりよい収穫につながる新たな希望を与えている。国内の耕作地の半分以上が雨水に頼っている。つまり、6月から9月にかけて発生するモンスーンの季節は、農業セクターとそれに関連する産業にとてつもない影響を及ぼす。

現状では、異常気象によるインドの損失は年間90〜100億米ドルに上っている。また、気候変動の脅威が高まる中、農家が異常気象に順応しなければ、2100年までに主要作物の生産性が40%も低下する可能性があると言われている。

ヒンディー語でそれぞれ「昇る太陽」と「太陽」を意味するPratyushとMihirというスーパーコンピューターは2基合計で6.8ペタフロップスの演算処理能力を持っており、これらによってインド政府はモンスーンの監視や異常気象の予測を行うことができる。

世界で4番目に強力な気象研究用コンピューターであるPratyushは、世界の気象状況を12キロメートルの高解像度で、64の異なる大気層で再現することができる。インドについては、3キロメートルという高解像度でのシミュレーションが可能だ。この計算能力の向上により、テキストメッセージで気象情報を受け取る農家の数が2,400万人から4,500万人に増加すると予想されている。

気象モデルでは、研究者が方程式を使って私たちの世界の物理的な原理を表現している。天気予報は、この方程式を解くことで行われる。Pratyushは、地球上の12平方キロメートル離れた架空の地点ごとに数値を計算し、これを地球の大気中のすべての層について繰り返している。

計算は、気温や湿度などの変数を変えながら20〜30回行い、できるだけ正確な予測ができるようにしている。モンスーンを監視することは容易ではないことは明らかだ。

苦境に立たされている河川

インドの聖なるガンジス川は、浮遊しているゴミや川岸で火葬された遺体の灰に覆われている。数千キロメートル離れたマレーシアでは、キムキム川が化学廃棄物によって汚され、その有毒ガスによって子供たちが毒に冒されている。

そのような汚染は視覚的・直感的に分かるものだが、人間は、火力発電所が熱水を環境に放水していることなど、知らず知らずのうちに見えない形でも水路を直接的に汚染している。そのような熱汚染は時間とともに水中の生態系のバランスを一転させ、魚や両生類が涼しい地域へ移動するとともに微生物が温水で繁殖し、溶存酸素を枯渇させてしまう。

現在、中国科学院の研究チームは、人為的に排出された熱が世界中の河川の水温に与える影響を定量的に示すモデルを開発している。科学者らは、河川の水温を計算する大規模なスキームを、全球陸面モデルと結合した河川ルーティングモデルに組み込み、河川の流れをシミュレートして、過去30年間の水温の変化を示した。

Tianhe-1スーパーコンピューターでモデルを実行することで、この研究では熱帯地域の河川の水温が最も上昇し、1981年から2010年にかけて10年あたり約0.5°C暖かくなっていたことが分かった。アジアでは、発電所だけでも地域の河川の温度を約60%上昇させている。

「気候変動が川の水を温め、人為的な熱放射によって水温がさらに上昇したのです。川も、さらには気候も、徐々に人間によって支配されつつあるのです」と研究者らは語る。

気候の水晶玉にのぞき込む

E3SMのような全球気候モデルは私たちが暮らす地球全体のシミュレーションに役立つものの、学者らは、特定の地域を評価するときは、それらのモデルを領域気候モデルにダウンスケールして使うのが普通だ。領域モデルが扱う範囲は比較的小さいため、これらのモデルは全球モデルよりも速く、高い解像度で実行できる。また、これらは、研究者らがより正確に気候を予測するために、局所的な地形や森林、湖といった特徴に関するデータを入力することも可能にしている。

気温が2~3°C上昇することによって東アジアの生態系にもたらされる影響を理解するために、韓国の研究者によるチームが同地域を「熱帯」や「極域」などの独特の気候ゾーンに分類した。その次に、領域気候モデルを実行し、それぞれのゾーンにおける気候が温暖化によってどのように変わるのか調査した。

研究者らは、韓国気象庁のスーパーコンピューター「No. 4」を用いて、地球上の炭素濃度を含む幅広い入力値を調整し、考えられる複数のシナリオを導出するために予想される排出量の異なる推定値に沿って変動させた。

研究チームは今から数十年先の温暖化した世界を覗き、調査したゾーンの多くで気候に驚くべき変化が見られたことを指摘した。その中でも最も顕著であったのが、高地のツンドラの侵食だ。気温が2°C上昇すると、チベット高原のツンドラは半分の大きさにまで縮小する。3°C上昇すれば、完全に消滅してしまう。

アジア最大の河川の水源として、チベット高原とその氷河は周辺諸国の水循環に欠かせない役割を果たしている。これらの氷河が気候変動によって縮小すると、アジアの河川は次の数十年間の間に「ピーク水量」に達し、その後流量が減少し、何億人もの人々の喉が乾くことになる恐れがある。ありがたいことに、スーパーコンピューターによる事前警告により、このような事態を防ぐ希望がある。

南北に27キロメートルしかないシンガポールは、アジアで最も小さい国家の一つだ。たとえ研究者が最高の全球気候モデルで天候を再現しようとしてみても、グリッドセルの中にポツンと表示されるだけだ。幸いなことに、国内の熱帯海洋科学研究所(TMSI)の気候・水研究クラスターに所属する研究者らが地球・領域規模の気候モデルをダウンスケールし、この都市国家における天候の気まぐれさを捉えることに成功している。

世界全体の気候を計算するよりも、一国の気候を計算する方が格段に楽だと思った方は驚くかもしれない。小さな地域の天候を詳細かつ正確に予測し、一日あたり天気予報を4回発表できるほど素早く行うために必要な何テラバイトものデータを処理するためには、研究者はスーパーコンピューターに頼らなくてはならない。

特に、シンガポールは、シンガポール国立スーパーコンピューティングセンター(NSCC)で島全体の気象シミュレーションをケッペンの気候区分に基づいて400メートルの高解像度で実行している。1.2ペタバイトの容量と160テラフロップスの性能により、このシステムは特に気候・環境の研究のために設計されている。

短期的な天気予報以外にも、研究者らはシンガポールの天候や気候が都市気候に及ぼす影響や、季節的なヘイズ現象を調査するためにシミュレーションを実施している。彼らはシミュレーションを東南アジア地域全体へと拡大しており、数十年単位の気候変化を8~10キロの解像度でモデリングしている。シンガポールは小さくとも、そのスーパーコンピューティングの能力は強大だ。