TechInnovation 2020の専門家によると、起業家とそのイノベーションがパンデミック後のより持続可能な世界の形成に一役を担うという。
AsianScientist - 新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックが現代人の生活スタイルを変えたことは間違いない。リモートワークはもはや珍しくなく、ほとんどの人にとって当たり前のこととなった。私たちはこれまで以上に家に閉じこもるようになり、外出はほぼ家の近くで手短に済ませるようになった。このような変化によって私たちの社会生活は縮小しているかもしれないが、予想外の恩恵を受けているものがある。それは環境である。
国境を閉じたことで旅行者が激減し、世界の二酸化炭素(CO2)排出量は17%減少した。それは一時的なものであり、気候変動の傾向を覆すにはまだ不十分である。しかし、このCO2排出量の減少は、特に都市が役割を果たせば、暴走する消費は代用可能であることを示した。
2020年12月9日にオンラインで開催されたTechInnovation 2020(シンガポール)の全体会議では「スマートで住みやすい都市」をテーマに、専門家らはCOVID-19後の持続可能な世界の実現について「テクノロジーが変化をもたらす」との考えを示した。
COVID-19を理由にバーチャルへ移行したさまざまな活動を通じて、パンデミックは、私たちが食物や住居、トイレットペーパーなどの日常的な需要を持つ「単なる物理的な存在」であることを思い知らせた。
スイス・チューリッヒ工科大学の学長室下にある、ストラテジック・フォーサイト・ハブのリーダーであるクリス・ルーブケマン(Chris Luebkeman)氏は「私たちはグローバルなサプライチェーンの脆弱性を非常によく認識しています」と語る。
しかし、そこには明るい兆しもある。大規模なリセットは、個人にも企業にも、本当に必要なものは何かを考え直し、常に目の前にあったチャンスを再発見する必要を強いたからである。
ルーブケマン氏は「想定外のアイテムが欠如したことで、私たちは、世界各地のローカルが持つ可能性を再発見することができました。10年前には想像もできなかったような新しい考え方ができるようになったのです」と言う。
個人的、政治的、そして環境的にも、大きな変化の端境期にある今、人類は選択を迫られている。一刻も早く日常生活に戻るのか、それともこの変化を利用してより良い世界を再構築するのか。ルーブケマン氏は、デジタルトレンドの加速とテクノロジーの進歩は、将来にとって良い兆候であると考えている。
「私たちには、未来を共同創造する役割があります。次の世代の人たちに『あなたの人生をより良くするためにできる限りのことをしたよ』と目をまっすぐに見て言えるように、変化をもたらすことが私たちの責任なのです」。
では、この危機的状況を、特に世界人口の大半を占める都市に住む人々の生活を見直す機会として利用するにはどうしたらよいのだろうか。スタートアップ・アクセラレーターであるUrban-Xのマネージング・ディレクター、マイカ・コッチ(Micah Kotch)氏は、都市をインフラだけではなく、総合的に考えなければならないと考えている。
コッチ氏は「まず、都市はプラットフォームであるという前提から始めなければなりません。あまりにも長い間、都市のインフラ、建築環境と人間はうまく共存ができていませんでした。気候変動やCO2の問題を総合的に考えようとすると、公共部門だけでは解決できません。本当に必要なのは、イノベーターや起業家による新しい考え方やイノベーションへの新しいアプローチなのです」と訴える。
そこで登場するのが、Urban-Xとそれを支援するスタートアップ企業である。Urban-Xは、食品廃棄物の問題に取り組むIndustrial Organic社や、化石燃料を使った交通手段の代わりに自転車を奨励するための折りたたみ式ヘルメットを製造するPark & Diamond社など、さまざまなポートフォリオ企業を擁し、気候変動やよりよい都市という課題に取り組む人々のグローバルなコミュニティを構築しようとしている。
「現状を打破するためにはどうすればいいかを考えることが、優れた起業家にとっては必要なことなのです」とコッチ氏は指摘する。
誰もが、持続可能で革新的でアクセスしやすく活気に満ちた都市を維持しながら、同時に将来のパンデミックに直面したときに都市が回復力を発揮できるようにしたいと考えている。おそらく今誰もが関心を持っているであろうこの問題に取り組む、HKS社のプリンシパル兼リサーチ・ディレクターであるウパリ・ナンダ(Upali Nanda)博士は、都市が将来のパンデミックにどのように備えることができるのかについて語った。
ナンダ博士は、ビジネスや生活の継続をサポートするエコシステムであるCommunity-BLOCの概念を取り上げ、シンガポールのトアパヨ地区をCommunity-BLOCの代表例として紹介し、これらのモデル地区は自己完結型の街として機能するようになっていると説明した。
そのうえで、ナンダ博士は次のように展望した。
「屋上庭園や屋台だけでなく、レクリエーションセンターやオープンスペースなど、複合的な利用を想定して設計されているため、"サーキットブレーカー"(シンガポールでのロックダウンを指す)期間中もその界隈の状況は変わることなく継続できました。私たちは、2020年になってようやく、完全に人間中心の世界では、私たちが目指すべき場所に到達できないことに気づきました。人間中心の世界から、生物中心の世界へと移行する必要があります」