アジア発、新型コロナのワクチンに期待

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを克服するには、最終的にワクチンが最大の武器となる。ワクチンの仕組みとアジアのワクチン候補の最新事情を探る。

AsianScientist - 人類が疫病に打ち勝つうえで重要な役割を果たすワクチンは、医療界の最大の偉業の一つとして広く認められている。ポリオウイルスによる疾患の小児ポリオの場合を考えてみると、ポリオが原因で肢体不自由児となる例は、数世紀にわたり、年間数十万例あった。1980年代後半には、ポリオ常在国は125カ国以上であったが、世界各地でワクチンの接種が行われた結果、現在もポリオが残存しているのはアフガニスタンとパキスタンの2カ国のみである。

世界保健機関(WHO)は、2010年から2015年の間にワクチン接種によって少なくとも1,000万人の死亡を防ぐことができたと推定している。世界中が新型コロナウイルス感染症の壊滅的な影響を受けている今、多数の命を救い、日常生活を取り戻すための最大の可能性が見込まれるものはワクチンである。現在、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する200種類以上のワクチン候補が開発されているのも不思議ではない。

人類の命運は、文字通り1回(または2回)の注射にかかっている。ここでは、これらの驚異的な医療の背景にある科学を深く掘り下げ、アジアのワクチン研究開発状況を紹介する。

(編集部訳注:本記事は元記事が紙面掲載された2021年1月の状況である。)

免疫システムが逆襲するとき

ワクチンの仕組みを理解するためには、まずは有害な微生物を身体が撃退する仕組みを理解する必要がある(下記イラスト参照)。

  1. ① 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のようなウイルスが体内に侵入すると、細胞(Cell)の仕組みを乗っ取り増殖する。
  2. ② 抗原提示細胞(Antigen-presenting cell)と呼ばれる特殊な細胞がウイルスを取り込み、後にウイルスのタンパク質が表面に現れる、あるいは提示される。
  3. ③ 提示されたウイルスタンパク質は、ヘルパーT細胞(Helper T-cell)と呼ばれる免疫細胞を引き寄せ、多くの免疫反応を引き起こす。
  4. ④ B細胞(B-cell)は、抗原(Antigen)と呼ばれる病原体の一部にロックオンする抗体を作るトリガーとなる。SARS-CoV-2が細胞内に侵入する際に使用するスパイクタンパク質が、ワクチンの標的となる重要な抗原である。
  5. ⑤ これらの抗体でコーティングされた病原体は破壊のためにマークされ、マクロファージ(Macrophages)と呼ばれる免疫細胞に飲み込まれる。

感染症が治まった後もその記憶はB細胞に残る。同じ病原体が再び体内に侵入した場合、「記憶」されたB細胞はすぐに放出できる抗体の武器を持つため、2回目の感染では抗体反応はより速く、より効果的なものとなる。

注射の中身は?

ワクチンは最初の感染を模倣し、同様の免疫反応を刺激することで免疫力を高める。いつか実際の病原体に遭遇したときに免疫システムが微生物の脅威に対抗できるように準備するのである。ここでは、ワクチンの種類とその作用について説明する。

アジアのワクチン候補

新型コロナのパンデミックの終結を目指し、アジアの優秀な研究者が新型コロナウイルスに対するワクチンの開発に取り組んでいる。ここで、彼らのこれまでの研究成果を世界の研究者の成果と比較してみる。

アジアにおける7種のワクチン開発の先行者

アジアだけでも少なくとも7種のワクチンが開発されつつあり、現在、複数の国で大規模な第3相臨床試験が行われている。そのうち5種は中国で開発されたものであり、残りの候補ワクチンはインドのバイオテクノロジー企業が開発したものである。

アジアの今後のワクチン開発

新型コロナのワクチンの開発競争に参加しているのは、中国とインドだけではない。植物由来のワクチン製造など、各地の研究者があらゆる手段を講じている。ここでは、アジア発で最も有望視される初期段階のワクチンを紹介する。

流通のジレンマ

ワクチンの開発は問題解決への道の途中の段階に過ぎない。その次の課題としては、より多くの人々に新型コロナワクチンを接種できるようにすることが次なる課題である。ここでは、ワクチンの流通を阻む障害をいくつか紹介する。

温度:ファイザー・バイオNテック(Pfizer-BioNTech)社のワクチンは、-70℃の低温管理が義務づけられているが、モデルナ(Moderna)社の候補は-20℃での保存が可能である。ワクチンは通常、保管時に氷点下の低温管理を要するため、必要なインフラが整っていない地域では温度管理が課題となる。WHOによると、サプライチェーンでの温度管理が不十分なために毎年最大50%のワクチンが無駄になっているという。

ワクチン・ナショナリズム:豊かな国は、ワクチンを事前に購入する設備が整っているため最初に入手することができるが、貧しい国は後塵を拝することになる。これは過去の事例だが、インドネシアは2007年、その最も被害の大きかった国の一つであったにもかかわらず、H5N1インフルエンザワクチンを購入することができなかった。

生産能力:世界のワクチン生産能力は、年間約60億回分と推定されている。新型コロナワクチンの中には2回接種のものもあるため、現在のワクチン生産システムでは生産能力を増強するための準備が十分ではない。

COVAXによる協力

新型コロナが効果的に根絶されるまでどの国も本当の意味で安全ではない。幸いなことに、世界中でワクチンへの公平なアクセスを確保するための「COVID-19ワクチン・グローバルアクセス・ファシリティ」(COVAX)のようなイニシアチブが存在している。

ビッグ3:COVAXは、WHO 、Gavi(ワクチンアライアンス)、CEPI(Coalition for Epidemic Preparedness Innovations)の3つの団体が共同で運営している。

目標:2021年末までに新型コロナワクチンを20億回分、170以上の加盟国それぞれに届けること。約100の中低所得国がCOVAXに署名し、約70の富裕国がワクチン配布のための資金を提供している。

計画:まず、各国の第一線で働く医療従事者を対象に全人口の3%を予防接種できるだけのワクチンを届ける。最終的には、各国の最も脆弱な層の20%をカバーするワクチンを提供する予定である。

WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイエスス(Tedros Adhanom Ghebreyesus)事務局長は、「戦略的かつグローバルに行動することは、実際には各国の国益にもつながる」と述べている。

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