イノベーションがアジアのエネルギーの未来を照らす

ソーラーパネルから燃料電池まで、地域でのエネルギー効率と資源の持続可能性への探求において、アジアの科学者たちは絶えずイノベーションを起こし続けている。

AsianScientist - ソーラーファームで埋め尽くされるようになった中国西部の人里離れた灼熱の砂漠から、固体電池を搭載した自動車のプロトタイプが作成されている日本の密集した大都市に至るまで、アジア各地で現代の化学や材料科学の応用が急速に広まっている。

これらの新技術に対する需要は、政府や企業が人口と所得の爆発的な増加に対応しようとして、エネルギー効率と資源の持続可能性を求めることによってしばしば大きくなる。

こうしたことはアジアでの太陽光発電の普及に最もよく現れている。中国は、ソーラーパネルと太陽光発電の両方において、一夜にして世界有数の生産国になった。2018年には中国で設置済みの太陽光発電の総容量は世界の3分の1以上を占める175GW(ギガワット)に達し、欧州連合(EU)の115GWをはるかに凌いだ。現在、中国のすべての都市が太陽光の「グリッドパリティ」(太陽光発電の価格が送電網供給による電力と同じ安さとなる点)を達成している。

インドでは設置済みの太陽光発電容量はすでに34GWを超えた。東南アジアでは2024年までに太陽光発電容量が現在のほぼ3倍の35.8GWになると、アナリストらは予想している。このように土地が限られた地域では、地域内にある多くのダム、湖、沖合水域に水上パネルを設置する割合が必然的に大きくなりそうである。例えばシンガポールは、その北側でマレーシアと隔てているジョホール海峡で、世界最大級の沖合水上ソーラーシステムを開発した。

多くのアジアの科学者が太陽光を電力に変換する能力を絶えず向上させている中、電力を光に変換する効率を向上させている科学者もいる。香港大学(HKU)の化学者ヴィヴィアン・ヤム(Vivian Yam)氏は、光の吸収や放出の向上を目指した金属含有化合物の操作の研究を20年以上続けている。

ヤム氏は、燐光有機 ELという新興分野におけるパイオニアの1人で、従来のイリジウムやプラチナよりも豊富・安価で環境に優しい金を用いた燐光有機 ELを初めて開発した人物である。世界最大級のテレビメーカーである中国の電子機器企業TCLは、金ベースタイプで印刷可能な有機 EL材料を開発するために、HKUに共同研究所を設立している。

液体を光らせている研究者もいる。シンガポール国立大学(NUS)の化学教授、リュウ・ビン(Liu Bin)氏は、凝集誘起発光というプロセスに依存する水分散性蛍光有機ナノ材料のグローバルな開発を共同で主導してきた。凝集誘起発光は、希薄溶液では発光しない蛍光物質が、凝集することで強い光を発光できるようになる現象である。

リュウ教授が自らの成果を商業化するために共同設立したLuminiCell社は、腫瘍やがん細胞などの生物学的プロセスの簡単で非侵襲的なイメージングと追跡を可能にする有機蛍光「バイオプローブ」を生産している。これは、環境に関する水のモニタリングや重金属検出などの他の用途にも応用できる可能性がある。

活気に満ちたアジアでの最新のエネルギー・グリッドの中心となるのは、性能が大幅に向上した蓄電・配電系だろう。「エネルギーのインターネット」として提唱されている、多数の分散したエネルギーの生産者と消費者を統合できる仮想発電所は、すでにマレーシアやシンガポールなどで試験的に運用されている。

最も注目されている分野は自動車用の新しい燃料電池であると思われる。これはアジアの科学者らがこれまでに数々のイノベーションを起こしてきた分野である。ノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏は、携帯電話から電気自動車まであらゆるところで使用されている「リチウムイオン電池の父」とされている。

吉野氏は1985年、電気を通す有機物質であるポリアセチレンを陽極、酸化コバルトを陰極に使用して、世界初の商業的に実現可能なリチウムイオン電池を開発した。

吉野氏はポリエチレンを基材とした薄い多孔質の膜によってそれらの電極を分離することで、過熱により膜がメルトダウンし、さらなる電気化学反応が阻害されるという、リチウムイオン電池における安全性の極めて重要な障壁を克服したのである。吉野氏のそれ以後の数多くの成果の中には、アルミ箔集電体の開発も含まれる。

ソーラーパネルと同様に、中国はリチウムイオン電池の生産と消費の両方を圧倒するようになってきており、世界の製造能力の73%を占めている。代表的な10億元(約170億円)規模の「材料ゲノム工学」プロジェクトからも明らかなように、こうした技術への注力は、材料科学を活用して中国をハイテク経済に転換するための広範な取り組みのほんの1例にすぎない。

新しい技術には、水素燃料電池や固体燃料電池などがある。燃料としての水素に対してよくある批判の一つが環境を汚染する生成プロセスであるが、これは一般的に石炭や天然ガスのガス化によるものであり、副産物として多くの二酸化炭素(CO2)を排出している。よりクリーンな方法には、太陽光で水を水素ガスに変換する光触媒によるものがある。従来の光触媒は、太陽光スペクトルの3〜4%しか占めていない紫外線を使用するため、非効率的である。

大阪大学産業科学研究所の研究者たちは、可視光と近赤外光の両方を含むより広いスペクトル範囲の光を吸収できる光触媒を発明した。これ二酸化炭素排出の無い水素生産に向けた重要な一歩であり、それ自体が2050年までに水素経済を普及させるという日本の水素基本戦略の重要な部分となっている。

そして、中国、日本、米国などの研究者の間でリチウムイオン電池を個体電池に置き換える競争が始まっている。この2つの技術の主な違いは、前者は電解質に液体を使用しているのに対し、後者はセラミックスやガラスといった固体材料を使用している点である。これにより、バッテリーのサイズを小さくし、発火するリスクも軽減されるはずである。アジアの化学者はモビリティの未来の鍵を握っているのかもしれない。

ホワイトペーパー「Five Years Of The Asian Scientist 100」(外部サイト)

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