米スタンフォード大学は4月19日、同大学の研究チームが、衛星写真を利用した機械学習により汚染物質の排出を検知するシステムを開発したことを発表した。
現在、米ミネソタ州立大学の博士研究員となっている共同研究者のニナ・ブルックス(Nina Brooks氏)とスタンフォード大学の研究者、ジヒョン・リー(Jihyeon Lee)氏は、バングラデシュ国際下痢疾患研究センター(ICDDR)の研究者らとの共同で、機械学習により衛星写真データの中にレンガ焼き窯を特定する高度なアルゴリズムを開発した。
バングラデシュのレンガ焼き窯は、経済成長に伴う建築資材の需要により、次々と増加している。違法な窯の燃焼効率は悪く、石炭の不完全燃焼に伴う排出ガスが、環境および健康リスクを増大しており、規制対象となっている。特に微小粒子状物質は人の肺に有害であり、その半分を排出する源であるレンガ窯が、人工密集地で健康リスクを増大している。
これまでバングラデシュ政府の担当機関は、手作業で窯の位置を特定しようと試みてきた。しかし、これには時間も労力もかかりすぎ、次々と違法に建設される窯を摘発し管理することは困難であり、正確性も保証できなかった。
そこで2016年からブルックス氏らは、バングラデシュでレンガ焼き窯による健康被害に関する調査を行ってきた。当初、石炭燃焼窯を赤外線検出することを試みたが、正確性が低かった。この問題を解決すべく、コンピューターサイエンティストやICDDRとの共同研究により、研究チームは機械学習の手法を取り入れた。これにより、高度な正確性をもつアルゴリズムの開発に成功し、レンガ焼き窯を特定するだけではなく、その位置も正確に示すことができた。この手法は、断片状になっている複数の衛星写真の再構築を行い、1枚の写真の中に複数の窯を特定するものである。この手法では、違法な建築様式の窯を識別することも可能となった。本研究の成果により、バングラデシュの4分の3のレンガ焼き窯が、違法に学校の1キロメートル圏内もしくは10%が医療施設の近隣に建設され、それらはかなりの数が禁止地区に建設されていることが明らかになった。
本研究により、衛星写真を用いて高度に汚染物質を排出している窯の位置を特定することが可能となった。バングラデシュのような経済的に困窮している国でも、こうした深層学習の技術を活用することで、健康被害を低減することが比較的容易になるため、環境政策への貢献が期待される。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部