アジアの古代の信仰体系、量子物理学・宇宙技術の先駆者らに影響

アジアを代表する物理学者たちは、量子技術と宇宙技術の新境地を開拓すると同時に、他の人には決して理解できない古代の伝統に深い敬意を払う。

AsianScientist - アジアには物理学と数学で多くの偉業が達成されてきた豊かな伝統がある。今ではありふれたものとなった羅針盤は中国の四大発明のひとつである。また、数学の歴史におけるインド人の貢献の中でも特に偉大なものはゼロの発見である。さらに、チベット高原の仏教徒から古代マレー世界の航海者まで宇宙の地図を作るためにさまざまな取り組みが行われてきたことも挙げられる。

アジアの古い信仰体系は、量子物理学の先駆者たちに影響を与えていることはあまり知られていない。

ヒンズー教の経典はアルバート・アインシュタインやシュレーディンガーに影響を与えたが、おそらく最も重要な異文化間の影響は、中国の「道」の概念がニールス・ボーアに与えたものだろう。ボーアは「相補性原理」を提唱したが、これは、物体にはすべてを同時に観察したり測定したりすることのできない相補的な特性の、特定のペアがあるというもので、量子力学の重要な教義となっている。

1947年にデンマークの爵位を授与された際にボーアがデザインした紋章には、道教の陰陽のシンボルと、ラテン語のContraria sunt complementa (相反するものは補完的である) という文字が書かれている。

こうした賢人たちの知恵を持つ中国が、今日、量子物理学の分野で世界をリードしているのは驚くに値しない。中国の、この分野における近年の急速な発展は、産学官の緊密な連携によるものと考えられている。例えば、中国の大手国有企業である中国船舶重工集団は、"中国のカリフォルニア工科大学"とも呼ばれる中国科学技術大学 (USTC) に研究室を設置している。

一方、アリババやバイドゥなど民間の大手技術系企業は、量子コンピューティングに多額の投資を行っている。中国は現在、安徽省合肥市に、100億米ドル(約11兆円)規模の国立量子情報科学研究所を建設している。

USTCの教授で"量子の父"と呼ばれる潘建偉(Pan Jianwei) 氏は、こうした取り組みで陣頭指揮を執っている。潘教授は、中国初の量子衛星Miciusの打ち上げを主導し、2017年には北京とウィーンの間でハッキング不可能なビデオチャットの進行を行った。Miciusは、光子に暗号化された暗号鍵を量子状態で発することでこれを実現した。量子状態とは、観測や傍受の試みに妨害されない状態を指す。

日本は長年、スーパーコンピュータ開発のパイオニアであり続けている。現在の研究活動は、電力を大量に消費するスーパーコンピュータのエネルギー効率の向上に向けられ、その能力を、高齢化、災害リスク、エネルギー使用、生産性の低下など、社会問題の解決に役立てようとしている。

インドも負けてはいない。初の量子光学研究所は、ラマン研究所のウルバシ・シンハ(Urbasi Sinha)准教授 が率いる。彼女の研究テーマは、とりわけ、qutritsと呼ばれる3次元のquditsを作成する「トリプルスリット」の実験に重点が置かれている。

よく知られている量子ビット (qubits) には2つの基礎状態があるのに対し、qutritsには3つの基礎状態がある。qutrits (3つの状態) で実行される量子コンピュータは、qubits (2つの状態) で実行されるビットに比べ、必要なビット数が少なく、したがって安定性が高い。

シンハ准教授の研究室は、インド宇宙研究機構と共同でインド初の衛星を使った量子通信プロジェクトを進めている。これは、中国、インド、日本という既存の宇宙大国が促してきたアジアにおける宇宙開発競争の、より広い範囲に含まれるものとなっている。

その目的は、社会経済や情報通信の発展から地政学的競争における国家安全保障まで、多岐にわたる。2011年には、中国が最初の宇宙実験室を軌道に乗せた。2014年には、インドがマーズ・オービター・ミッションの打ち上げに成功し、初の試みで赤い惑星に到達した最初の国という栄誉を同国にもたらした。

他のアジア諸国では、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムなどが新たに宇宙に参入している。こうした国々の目的は、急成長している宇宙サービス市場を開拓することにある。この他、この分野における近年の注目すべき成果としては、日本の理化学研究所仁科加速器科学研究センター超重元素研究の森田浩介部長が率いるチームによる、ニホニウム (113番元素) の発見が挙げられる(下記サイト参照)。

ニホニウムのような超重元素は、自然界には存在しない。原子炉や粒子加速器の中で、核融合や中性子吸収によって合成される。ニホニウムは、軽い原子核同士を衝突させ、その後の放射性超重元素の崩壊を追跡することによって作成された。

森田氏のチームは、線形加速器とgas-filled recoil separator (ガス充填リコイルセパレータ) と呼ばれる新しい核分離器を使ってニホニウムを合成した。113番元素を3回作るために、9年間で4兆回以上の衝突が必要とされた。

その間、森田氏は神社に参拝するたびに113円 のお賽銭を入れていた。素粒子や銀河系レベルの発見をするような、アジアを代表する物理学者たちであっても、計り知れない神秘に対して畏敬の念を持っているということを私たちに気づかせる。

物理学やその他分野の心躍らせる発展の詳細については、下記のホワイトペーパーで詳細を確認できる。

Asian Scientist Magazine(外部サイト): Five Years Of The Asian Scientist 100(2016-2020)

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