世界の経済と科学の中心地がアジアに移るにつれて、この地域の豊かな文化遺産が研究開発に与える影響がますます明らかになりつつある。
AsianScientist - アジアのトップ科学者を評価したFive Years of the Asian Scientist 100(アジアの科学者100人の5年間)の報告書から、明らかな傾向がいくつか浮かび上がった。
第一に、世界の経済と科学の中心がアジアに移行するに伴い、この地域はイノベーションと商業化の面で独立性が強まってきている。アジアの各国政府や消費者は、インダストリー4.0を象徴する人工知能(AI)などの最新技術に対し、大きな欲求を見せている。
アジアの消費者向けテクノロジー企業は高度化し、研究開発からマーケティング、カスタマーサービスまであらゆる面で世界最高の企業と肩を並べるものであり得る。
もはや、アジアの企業をグローバル・サプライチェーン(供給網)の中の単なるバックオフィス、作業場、OEM(相手先ブンランド名製造)業者と見なすことはできない。アジアの技術エコシステムは成熟し、アジアの科学者たちや彼らが所属する企業は、イノベーションや商業化において外部市場にあまり頼る必要がなくなったことが示されている。
第二に、アジアの技術分野の成熟に伴い、トップクラスの科学的才能の頭脳流出は鈍化し、場合によっては逆転することさえ見られるようになった。アジア最高の頭脳が、おそらく欧米での短期間勤務の後でこの地域で働くことを強く望むだけでなく、世界中の科学者たちがますますアジアに魅力を見出している。欧米の多国籍企業は、今やアジアの施設を低コストのいとことみなしてはいない。本格的な兄弟とみなしている。
第三に、地政学的競争、貿易戦争、そしてさらに最近では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関係してサプライチェーンが受けた衝撃はすべて、アジアの科学の進歩がさらに自己完結型となる未来を指し示すかもしれない。この地域における技術開発において他にも変化が起こりそうであるが、その背景となっているのは中国と米国の間の地政学的競争である。
確かに、国際協力が完全に停止することは決してあり得ない。今でも、科学の世界では、リチウムイオン電池のように、遠く離れた場所で働く研究者の専門知識を生かした独創的な発明が期待されている。それにもかかわらず、社会政治的要因は範囲を広げ、そのような交流と協力の成長に影響を与える。
第四に、科学技術の発展に対する熱意はアジア全体で非常に高いものであるが、個々の社会はこれらに適応し、吸収するにあたりさまざまな方法を使用するであろう。
アジアには、さまざまな社会政治システムと経済システムが存在している。科学の進歩はその異なるシステムの中で起こる。この違いは科学への資金提供方法に影響を及ぼし、中国などでは政府、学界、産業界の緊密な連携が行われる。
また、とりわけ、AIの倫理的な使用や自動化による転職などといった、現在発生している社会的議論を活気づかせるだろう。アジア全体におけるこの多様性は混乱を招くようだが、利点の一つとして、この地域の科学者が基礎研究のさまざまな応用を体験できることが挙げられる。
一つの明確な例として、電気自動車(EV)と燃料電池自動車(FCV)の進歩が挙げられる。すでにアジア全体で、ジャカルタから東京まで、都市間で実に様々なエンジンと輸送モードの組み合わせを見ることができる。
経済成長が様々な段階にあることもあり、この多様性は時間とともにさらに広がる可能性がある。アジア全体で、従来の燃焼エンジンに代わる様々な応用技術を見ることができるようになる。
最後に、中国の屠呦呦(Tu Youyou)博士(ノーベル生理学・医学賞受賞)から日本の森田浩介氏(113番元素「ニホニウム」発見)に至るまで、アジアの科学者は、現代の技術の使用を受け入れつつ、文化と伝統に深い敬意を払っている。
これは、この地域の研究者が、直接的な裏付けや証拠はないにしても、何世紀にもわたって存在してきた信仰、習慣、文献からインスピレーションを見つけ続けていたであろうことを示すものである。これは、アジアの豊かな科学遺産と文化遺産を十分反映している。
アジアの科学者について、ホワイトペーパー「Five Years Of The Asian Scientist 100」で詳細を確認できる。
Asian Scientist Magazine(外部サイト): Five Years Of The Asian Scientist 100