台湾大学(NTU)の研究者らは、魚が発する音による「コーラス」(chorusing)の季節的なパターンを分析し、台風等の異常気象によりコーラスが止まる可能性があることを発見した。研究成果は科学誌Ecological Indicatorsに掲載された。
海洋分野では、魚を含む海洋生物の分布や行動を知るための手掛かりとして水中音の時間的傾向や空間的なパターンが古くから研究されてきたが、時間的・季節的な変化に関する、各生物種に特有のデータは不足していた。
そこでNTU工学・海洋工学科のチファン・チェン(Chi-fang Chen)教授らが率いる研究チームは、種に特有の行動をより正確に推定するため、台湾海峡の東側で、2014年から5年間にわたって魚の発する音を録音した。魚の音を録音した研究としては、これまでで最長期間のものとなる。
最大の難関は、さまざまな生物音が含まれる大量の受動的音響データセットから正確なデータを抽出することであった。チェン教授らは効率的な生態音響学的指標(ecoacoustical index)を用いて魚の発する音を自動的に抽出することによりこの問題に対処した。
研究の結果、「コーラス」には温度、潮、月の満ち欠け等の非生物的要因の影響を受けた周期的なパターンが存在し、夏に最も盛んになり、冬は2カ月間にわたってほぼ無音状態になることが分かった。さらに、異常気象(台風、堆積物の再懸濁を引き起こす暴風雨等)によりコーラスが止まるという相関関係も示唆された。
この研究は、台湾政府が推進している洋上風力発電所の建設により、海洋生物に悪影響が及ぶ可能性も指摘している。
この長期的な研究の成果は、海洋生物の行動に周囲の環境や人為的な要因、気候変動が及ぼす影響を検討するための基盤になると考えられる。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部