腸内微生物、脳の神経細胞の形成を手助け 老年期の記憶喪失予防も

科学者らによると、トリプトファンを代謝する腸内微生物は、成人の脳の新しいニューロン(神経細胞)の生成を刺激する分子を放出する。

AsianScientist - 考えさせられることがある。私たちの腸内にいる小さな微生物は、成人の脳の中の新しい神経細胞の形成を支援してくれるかもしれない。実際のところ、腸内微生物は、老年期の記憶喪失を防ぎ、損傷後の神経細胞の修復を助けてくれるかもしれない。この調査結果は、米国科学アカデミー紀要(the Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)に掲載された。

緊張してお腹が落ち着かない気持ちになったことや腹を決めて行動したことがあるならば、それはいわゆる「第2の脳」、つまり腸の影響を無意識のうちに感じたことを意味する。何といっても、ねじれて回転している私たちの腸の中には、食物の代謝を助けるだけでなく、有害な病原体から体を保護する役割も果たしている何十億もの微生物が隠れている。

シンガポールやスウェーデンの科学者らで構成された国際チームは、私たちの腸内であふれる多くの微生物が持つ新しい機能を発見した。それは成人の脳の中の新しい神経細胞の形成を助けることである。

そしてシンガポール国立神経科学研究所のスベン・ペターソン (Sven Pettersson) 教授が率いるチームは、必須アミノ酸であるトリプトファンを代謝する腸内微生物がインドールと呼ばれる小分子を分泌し、その小分子が成人の脳の新しい細胞の発達を促進することを発見した。

チームはまた、インドールを介した信号が、記憶と学習に関連する脳の領域である海馬の中で主要な因子を刺激することを証明した。この因子は成人の新しいニューロンを生成するのに重要であることが分かっている。

「この発見はエキサイティングなものです。なぜなら、腸内微生物によって生成された分子が成人の脳の新しい神経細胞の形成を刺激するという腸と脳の連絡が、脳細胞の再生にどのように翻訳されるのか機構的な説明をしてくれるからです」とペターソン教授は説明する。

著者らは、この調査結果により、老化やアルツハイマー病といった神経変性疾患を原因とする記憶喪失を遅らせることのできる新しい治療に一歩近づくことができたと言う。

たとえば、インドールの作用を模倣して海馬での新しいニューロンの生成を刺激する薬を設計したり、老化を遅らせることができるインドールが豊富な食品を開発したりすることができる。

「私たちは現在、インドールが脳の発達中にニューロンの初期形成を刺激できるかどうかを評価しています。他に可能性のある分野として、新しいニューロンを生成する緊急の必要性がある脳卒中または脊髄損傷の状態があります。私たちの前には興味深くワクワクする時間が待っています」とペターソン教授は締めくくった。

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