海馬の「苔状細胞」が抗不安効果を媒介 台湾で発見

台湾の国立陽明交通大学(NYCU)のチェンチャン・リエン(Cheng-Chang Lien)特別教授が率いる研究チームは、脳の海馬に存在する細胞が、不安を抑える効果を媒介することを発見した。この研究の成果は学術誌 Cell Reports の2021年9月14日号に掲載され、表紙画像に採用された。

マウスを用いた研究のイメージ (提供:台湾科技部)

不安症の病態生理はこれまで解明されておらず、有効な介入戦略の確立が必要とされていた。リエン教授らは脳の海馬が記憶や空間認知だけでなく感情の制御でも重要な役割を果たすことに着目し、脳の回路と不安の関係を解明しようと試みた。

研究チームはマウスを用いた遺伝学的研究により、海馬の歯状回に存在する「苔状細胞」(mossy cell)の活動が、環境内の不安を惹起する要素と相関していることを発見した。マウスが不安を惹起する環境(明るく開かれた空間等)にいると苔状細胞の活動が亢進する。さらに、化学遺伝学的手法を用いて苔状細胞の活動を操作したところ、苔状細胞の活動が亢進すると、(不安に関連する)回避行動が減少した。

また、ハンガリーのセゲド大学(University of Szeged)の研究者と協力して、苔状細胞が活性化した際の三シナプス回路を通じた神経活動を記録した結果、苔状細胞が歯状回の抑制性細胞(inhibitory cell)を選択的に活性化し、海馬の出力を抑制することがわかった。

さらに研究チームは、精神障害を併発する筋肉の慢性疼痛、線維筋痛症候群に対しても、苔状細胞が抗不安効果を発揮することを検証した。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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