台湾の中央研究院(Academia Sinica)は1月3日、ポリグルタミン病の発症年齢の遅延に関わる保護的遺伝子変異(protective variant)「PIAS1S510G」を発見したと発表した。この研究の成果は2021年12月に学術誌 Movement Disorders に掲載された。
ポリグルタミン病は、ポリグルタミンをコードするCAG三塩基繰り返し(repeat)配列が原因遺伝子の中で増大することで生じる神経変性疾患である。ハンチントン病や脊髄小脳失調症3型はポリグルタミン病の一種であり、主な症状として運動機能障害を生じる。また、CAGの繰り返しが長いほど変異タンパク質が急速に蓄積し、発症年齢が早くなる。
今回の研究では、ポリグルタミン病の発症年齢に関連する新しい遺伝的修飾因子を同定するため、ハンチントン病または脊髄小脳失調症3型を有する337名の患者を登録し、583個の遺伝子の配列を決定した。解析の結果、「PIAS1」の遺伝的変異である「PIAS1S510G」が発症年齢の遅延に関係することが分かった。
PIAS1は、E3 SUMOリガーゼ(E3 SUMO ligase)として、変異ハンチンチン(huntingtin: HTT)タンパク質の安定性と蓄積を調整するSUMO修飾に関与する。PIAS1S510Gは正常なPIAS1と比較して変異HTTとの相互作用が弱いため、PIAS1S510Gの発現はSUMO修飾を抑え変異HTTの蓄積を減らすこと につながる。PIAS1をPIAS1S510Gに置換したハンチントン病のマウスモデルでは、ハンチントン病様の障害の重症度がより低く、脳内のHTTの蓄積がより少なくなった。
本研究の結果、PIAS1がポリグルタミン病の遺伝学的調整因子であることが示唆された。また、PIAS1S510Gがハンチントン病の発症の遅延と疾患の重症度の低下に関連することがわかった。これにより、ハンチントン病の治療において、PIAS1またはタンパク質の恒常性を制御する経路を標的とする疾患修飾療法が有効である可能性が示された。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部