台湾大学(NTU)は、同大学と台湾海洋大学(National Taiwan Ocean University)、常州大学(Changzhou University)の共同研究チームが、多重共鳴-熱活性化遅延蛍光(multiple resonance-thermally activated delayed fluorescence: MR-TADF)を用いた有機発光体のホスト(host)とゲスト(guest)間の相互作用を解明したと発表した。「NTU HIGHLIGHTS 87」(2021年12月号)で紹介された。この研究の成果は学術誌 Nature Photonics に掲載された。
MR-TADF材料は、通常のTADF材料と比較して発光帯域幅が狭く色純度が高い等の利点を持ち、有機発光ダイオード(organic light emitting diode: OLED)やディスプレイの分野で高い関心を集めている。しかし、いくつかのMR-TADF化合物は光励起状態で直ちに強い蛍光を発するが、遅延蛍光の兆候を示さず、研究者を困惑させていた。
NTUのピータイ・チョウ(Pi-Tai Chou)教授らは、新たに合成したMR-TADF分子を用いてこの謎の解明を試みた。チームは、ホストとゲストが相互作用により、過渡的な電荷移動の中間体(transient charge transfer intermediate)を生成する可能性があることを突き止めた。この中間体がゲストである蛍光分子の一重項状態と三重項状態を「橋渡し」することにより項間交差(intersystem crossing)及び逆項間交差を加速し、遅延蛍光を作り出すという。
このメカニズムに基づき、OLED研究者は、一重項状態と三重項状態のエネルギー差が熱活性化に適した小ささであるにもかかわらず遅延蛍光の性質を示さない材料を再度検討することができる。この研究成果は高性能なOLEDの開発に役立つと期待される。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部