AsianScientist (2022年02月03日)-専門家が根拠に基づく研究を進め、規制基準を作り上げれば、伝統的な漢方薬は臨床使用の主流に向かう。
データ主導の性質を持つ今日の臨床診療の中で、漢方薬は通常、科学的根拠のない老婆の話のように時代遅れなものと見なされている。しかし、体と心の健康は全世界で人気と関心の中心であり続けていることから、漢方薬による伝統的な介入は、新薬同様、現代医学に役立つかもしれない。
アジアの医療専門家らは、病気治療の貴重な形態かつ効果的な予防戦略として伝統医学に細心の注意を払い、伝統的知識と文化的知識を評価するために、科学的根拠を明らかにし始めている。シンガポールで活動中の中国伝統医学 (TCM) の施術者は2,000人を超え、現在、いくつかの地元の病院が西洋式医学と併せてTCM療法を提供している。
シンガポールで開かれたIPIのTechInnovation2021会議では、地域全域から集ったこの分野のリーダーたちが、伝統医学をさらに発展させるために、傾向、機会、および臨床支援について話し合った。
TCMは最も古い医療システムの1つとして、東アジアで2,000年以上にわたって実践されてきた。施術者は多くの薬草を試し、よい影響や悪影響を観察する。TCMは長い歴史を持つが、治療効果を評価するためのゴールドスタンダードであるランダム化比較試験は1982年に初めて発表され、それが唯一の例である。
香港バプティスト大学 (HKBU) の副学長であるビアン・ジャオシング (Bian Zhaoxiang) 教授にとって、TCMの根拠に基づくアプローチを促進するためには発表が欠かせない。
医薬品は厳格な試験でいくつもの段階を経なければならない。これと同様に、漢方薬も科学的基準に基づいて精査する必要がある。ビアン教授は、現代のTCM研究では、他の介入、特に西洋医学が、伝統医学とどのように相互作用して患者の反応に影響を与えるかを考慮しなければならないと語った。
さまざまな疾患や患者背景に対するTCM製品の有効性を評価することにより、このような研究から、既存の伝統薬の利点と新薬の開発を特定する道を開くことができる。
特に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの発生に関連して、消費者は伝統的な漢方薬や健康補助食品といった、補完的な健康製品を集中的に調べるようになってきている。テマセクポリテクニックのエドマンド・ティアン (Edmund Tian) 博士は、アジアでは、この業界の市場規模は現在4,000億米ドルであることを強調する。
この消費者の関心の高まりに伴い、多国籍企業はパートナーシップと企業買収を利用して伝統医学の分野に参入した。「多くの野心的な新興企業もこの分野に参入しました」(ティアン博士)とも。
この業界が拡大し続ける中、消費者は漢方薬製品が本当に機能するという明確な根拠に注目している。
地元のTCM企業であるEu Yan Sangのグループ製品開発管理部門の責任者であるヤコブ・チェオング (Jacob Cheong) 氏は「消費者の考えは、治療から予防に変化しました。消費者は病気になる前に健康を増進するサプリメントを買っています」と説明する。
ティアン博士は、細胞培養試験からヒトの治験まで、さまざまな研究努力がこれらの伝統的な薬の安全性と有効性を示していると指摘する。健康によい特性を持つ化合物をスクリーニングし、独自の薬草製剤を開発することにより、取り組みは科学に基づくものとなり、企業は成長するTCM業界で競争力を維持することができる。
漢方薬製品から意図した健康上の利点を確実に受けるには、TCMが病院で提供される前に標準化を行い、規制を策定することが不可欠である。しかし、最も効果的な薬草を使用しても、規制当局の承認を得るのは口で言うほど簡単ではない。
漢方薬には圧倒的な多様性があり、その伝統的な知識は複数の異なる文化に根付いていることから、標準化の達成は困難である。
「根拠は重要ですが、それだけでは十分ではありません。伝統医学を臨床に取り入れるためには、さまざまなパートナーや利害関係者を調和させる必要があります」とHKBUの中国医学部の学部長であるリュ・アイピング (Lyu Aiping) 教授は述べる。
たとえば、中国では、小児科や外科手術などのさまざまな医療分野のガイドラインとともに、鍼治療と漢方薬製剤の診療ガイドラインを定めている。リュ教授によると、これにより、TCM製品の規制に役立つ国と地域の基準の開発を推し進めることができ、診断と治療方法を簡素化して、コストを削減できるという。
根拠を提供し、規制システムを組み込むこれらの取り組みを通じて、伝統的な漢方薬分野は成長し、主流に近づくはずである。現代の科学技術と伝統的・文化的戦略を組み合わせることにより、医療分野は、地域社会の健康と福祉を強化する態勢を整えた、より包括的なアプローチを備えることができる。