AsianScientist (2022年02月16日)-シンガポールと米国の研究チームは抗菌特性を備えたスマートな食品包装素材を開発した。この素材は生鮮食品の消費期限を延ばすことができる。
スーパーマーケットの棚には売れ残った商品が並び、毎日大量の腐敗した食品や傷んだ食品が捨てられている。シンガポールと米国の研究チームは、生鮮食品の消費期限を延ばすために、化合物を放出して有害な微生物を殺すことのできる新しい生分解性包装材料を開発した。この発明はACS Applied Materials&Interfaces 誌に発表された。
世界中で生産された食品の3分の1は食卓まで届けられない。腐敗や物流の非効率性により、サプライチェーンの途中で廃棄される。これらの食品の安全性と廃棄を憂慮して、業界と研究者は生鮮食品の鮮度を維持できる持続可能な包装材料の開発を考えた。
その一方、食品包装用プラスチック自体が問題になっている。この種のプラスチックは産業部門から生み出されるプラスチック廃棄物の大部分を占める。国家環境庁は、シンガポールだけでも、2018年に家庭で処分された176万トンのゴミの3分の1が包装廃棄物であると報告した。その半分以上はプラスチック包装であった。
合成プラスチックの代替品を提供するために、シンガポールの南洋理工大学 (NTU) と米国のハーバード大学のチームは、生分解性、非毒性、抗菌性を持つ包装材料を開発した。主成分はゼインと呼ばれるタンパク質であり、これはコーン油を使ってエタノールを生成する際の副産物である。ゼインには抗菌作用がある。
研究者らは、ゼイン、植物の細胞壁に含まれる複合糖類であるセルロース、および酢の主成分である酢酸を組み合わせた。さらに、タイムオイルおよびオレンジやレモンなどの柑橘系の果物から得たクエン酸など、抗菌成分を多く持つ物質を構造に注入した。
この新しい材料は、バクテリアの存在するところや湿度の上昇に曝露すると、少量の抗菌性化合物を放出する。放出のタイミングがベストであるため、包装された商品の自然な構成を保つために必要な場合にのみ食品を守ってくれる。
研究室で行われた実験では、包装は大腸菌や真菌などの有害なバクテリアを寄せ付けず、汚染を最小限に抑え、腐敗を遅らせた。たとえば、包装材料で包まれたイチゴは7日間新鮮な状態を保ったが、市販のプラスチックの箱に入ったイチゴの場合、4日間でカビが発生した。
新鮮な果物だけでなく、生肉や調理済食品など、さまざまな製品に使用できる。さらに開発を進めれば、生分解性材料は食品の安全性と品質を確保する、プラスチック包装の持続可能な代替品として使われるかもしれない。研究者たちはすでに、この材料を今後数年の商品化を考えて、産業界との提携を検討している。
今回の発明について、「人間に害を及ぼす可能性を持つ数多くの食品関連細菌や真菌と戦う上で優れた抗菌性を示しているため、食品業界では包装の優れた選択肢として役立つでしょう」とNTUの抗菌バイオエンジニアリングセンターのセンター長であるメアリー・チャン (Mary Chan) 教授は話している。