台湾の中央研究院(Academia Sinica)は5月23日、同院の研究者が、重要ながん抑制遺伝子であるBRCA1関連タンパク質1(BRCA1-associated protein 1:BAP1)の核内輸送(nuclear import)が、非定型的な核内輸送因子であるトランスポーチン-1(transportin-1:TNPO1)によって制御される分子機構を解明したと発表した。研究成果は6月6日付で学術誌 Journal of Cell Biology に掲載された。
BAP1の非定型的な核局在化シグナル(nuclear localization signal)(「PYモチーフ」)へのTNPO1の結合が、細胞質内のBAP1の保持に有利に働くE2/E3結合酵素UBE2Oの作用を阻害することが明らかになった。
BAP1の変異は悪性中皮腫やぶどう膜黒色腫、淡明細胞型腎細胞がんで多くみられ、BAP1が核内に適切に局在しているかどうかが、これらのがんの予後マーカーになりうると考えられている。しかし、BAP1の核内輸送に関する分子機構はこれまで解明されていなかった。
シャンテ・ダニー・シュ(Shang-Te Danny Hsu)博士が率いる研究チームは、シンクロトロンX線結晶構造解析を含む、プロテオミクス、遺伝子編集、生細胞イメージング、生物物理学、構造生物学の最先端の研究手法を用いてこの機構を明らかにした。
この研究は、BAP1が関与するがん生物学への基礎的理解を広げると期待されている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部