台湾の中央研究院(Academia Sinica)は5月11日、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)を介した「トロイの木馬」型アプローチ(Trojan Horse approach)と、細菌を用いた療法を組み合わせた、画期的ながん治療法を開発したと発表した。研究成果は学術誌 Molecular Therapy に掲載された。
研究チームは、ファージディスプレイと酵母ディスプレイを用いて、TNF-αに「おぶさって(piggyback)」、細胞内に共に移行できる非中和抗体を選択した。この抗体は毒素と結合し、TNF-αを介してがん細胞を殺す働きを示した。免疫毒素を分泌する遺伝子組み換え大腸菌をマウスの腫瘍内に注入したところ、腫瘍の増殖が大いに阻害され、抗腫瘍作用を持つN1好中球、M1マクロファージ、CD4+リンパ球、CD8+リンパ球等の腫瘍浸潤免疫細胞の働きが強化された。
TNF-αは腫瘍を促進する因子として知られているが、従来のTNF-α中和抗体は、臨床研究においてわずかな抗がん作用しか示していない。今回開発された手法は、中和とは異なる機序を用いてTNF-αを標的とする点で画期的である。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部