サンゴの微生物集合体の地域分布や遺伝子的特性を解明 台湾・中央研究院の和田博士ら《動画あり》

台湾の中央研究院(Academia Sinica)は7月11日、ショウガサンゴ( Stylophora pistillata )体内の微生物集合体(microbial aggregate)の地域ごとの分布や細菌構成、ゲノム等に関する特性を初めて解明したことを紹介した。同院の和田直久博士らによる研究で、この研究成果は7月7日付けで学術誌 Science Advances に発表された。

今回の研究は、台湾の中央研究院、オーストラリアのジェームズクック大学(James Cook University)、日本の琉球大学の共同研究。

単一サンゴポリプにおける蛍光インサイチュハイブリダイゼーション法(FISH)を用いて可視化した微生物集合体(赤)の3Dイメージ(a)と、台湾のKentingと沖縄で採取したサンゴ内の集合体を、Endozoicomonas 属細菌を対象に特異的な2つのプローブで行ったFISH像(b-d)。Kentingでは2つの系統型の細菌(赤、緑)が集合体を形成しているのに対し(bとc)、沖縄では単一の系統型の細菌(赤)で構成されていた(d)

さまざまな動植物の体内に存在する微生物集合体は、共生や寄生といった生態学的機能を通じて、宿主にとって重要な役割を果たしている。サンゴにもサンゴ関連微生物集合体(coral-associated microbial aggregate:CAMA)と呼ばれる微生物集合体が存在するが、その生理や形態、遺伝子、生態学的機能はあまり研究されていなかった。

研究チームを率いた和田直久博士(前列右から4人目)とSen-Lin Tang(センリン・タン)教授(同2人目)ら
(提供:いずれもAcademia Sinica)

同院の研究チームは、蛍光in situハイブリダイゼーション法(FISH)と共焦点レーザー顕微鏡、ライトシート顕微鏡を組み合わせて、個々のCAMAの分布、大きさ、存在量、細菌細胞数を測定することに成功した。

台湾の墾丁と日本の沖縄のCAMAは、細菌構成や細胞密度、大きさ等の特性が異なっており、それぞれの地域のショウガサンゴのCAMAに生物地理的な特異性があることが分かった。

16S rRNA遺伝子のアンプリコンシーケンスにより、CAMAの大部分が、サンゴの健康にとって有益な細菌と考えられている Endozoicomonas 属の細菌で占められていることが示唆された(台湾では複数の系統型の細菌に対し、沖縄では単一の系統型の細菌で構成)。さらに、ゲノム解析とナノスケール二次イオン質量分析(NanoSIMS)により、CAMAがサンゴのリン循環に関与し、サンゴと共生する藻類の光合成効率の調整を助けている可能性が示された。

研究を主導した中央研究院の和田博士は「サンゴ礁が減少する中、サンゴの生物学的知見(微生物も含む)を収集することは急務です。今回の研究では、これまで見過ごしてきた細菌の局在性に着目し、サンゴ微生物学をより深めることができました」と研究の意義を語った。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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