台湾の陽明交通大学(NYCU)は台北市立総合医院松徳院区(Taipei City Hospital, Songde Branch)との最新の研究により、炎症関連疾患への罹患後の不安に関するFkbp5遺伝子の役割を明らかにした。10月3日付け発表。この研究成果は学術誌 Journal of Neuroinflammation に掲載された。
不安は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症(long COVID)として頻度の高い症状の1つである。Fkbp5遺伝子はストレスホルモン受容体の活性を制御し、精神疾患において重要な役割を果たす。
今回、研究チームは、Fkbp5をノックアウトしたマウスが、体内の炎症からの回復初期に、病気の症状が軽減しているにもかかわらず、不安様行動を示すことを発見した。これに対し、野生型マウスは、回復後に不安様行動を示すことはなかった。
NYCUのイーシュアン・リー(Yi-Hsuan Lee)教授によると、炎症により視床下部−下垂体−副腎系(HPA)が活性化されると、Fkbp5にコード化されたFkbp51タンパク質が過剰発現し、腹側海馬のニューロンにおけるGABA合成酵素の増加を含む、感情を安定させる一連の分子機構が開始される。しかしFkbp5をノックアウトした場合、この分子経路が正常に機能できなくなり、不安が生じるという。
今回の研究は、炎症が引き起こす不安にかかわるFkbp5遺伝子の分子機構を初めて明らかにし、炎症関連疾患からの回復後の気分障害の診断と治療に役立つ新たな理論的根拠を提示している。
(提供:いずれもNYCU)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部