台湾の中央研究院(Academia Sinica)は2月4日、同院の研究者らが、1細胞(single-cell)トランスクリプトーム解析により、植物の木部(xylem)の発生・進化過程の解明につながる知見を得たと発表した。この研究の成果は学術誌 Genome Biology に掲載された。
木部は地球上に最も豊富に存在する生物組織であり、植物に機械的支持を与え、植物体の各部に水を運ぶ役割を担っている。植物が木部の形成を制御する方法や木部が進化した過程を理解することは生物学上重要であるが、解剖学や顕微鏡を用いた従来の研究手法では、動的な発生過程を完全に解明することはできない。また、異なる植物間での木部の形態的な類似性や相違に関する進化的関係性は、ほとんど明らかにされていなかった。
中央研究院のチュアン・クー(Chuan Ku)氏と台湾大学(NTU)のインチュン・ジミー・リン(Ying-Chung Jimmy Lin)氏が率いる研究チームは、台湾在来のヤマグルマ( Trochodendron aralioides )を含む、顕花植物(被子植物)の異なる系統を表す4種の樹木の木部組織を採取し、トランスクリプトームデータを解析した。
解析の結果、被子植物間で放射(ray)細胞の発生の軌跡はよく保存されているが、紡錘形(fusiform)細胞の発生系統は異なることがわかった。この研究の成果は、木部の発生に関する細胞アトラスを提示し、植物組織の進化発生生物学(evo-devo)研究に新たな視点をもたらすものである。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部