台湾の中央研究院(Academia Sinica)は2月7日、同院の研究者が率いる共同研究チームが、亀山島(Turtle Island)沖の熱水噴出孔周辺に生息するカニ「 Xenograpsus testudinatus 」が、細菌と細胞内代謝を通じた共生関係を築くことで、厳しい環境に適応している可能性があることを発見したことを明らかにした。研究成果は学術誌 Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences や Nature に掲載された。
台湾北東部に位置する亀山島沖の浅海熱水噴出孔周辺は、世界で最も酸性度が高く、硫化物の濃度が高い海洋の生物生息環境である。このカニは噴出孔の直近に生息する唯一の後生動物種であり、生物にとって有毒な硫化水素が大量に存在する環境で生態的地位を築いている。しかし、その解毒の仕組みは明らかになっていなかった。
同院細胞個体生物学研究所海洋研究ステーション(Marine Research Station of Institute of Cellular and Organismic Biology)のユンチェ・ツェン(Yung-Che Tseng)博士が率いる共同研究チームは実験室とフィールドでの実験により、このカニのエラに硫化物を解毒する機構があることを発見した。また、さらなる分析に基づき、エラで生成されるチオタウリンという物質を、体内に共生する(endo-symbiotic)硫黄酸化細菌が利用し、これにより硫化物を緩衝するシステムが形成されていることを示唆した。
この研究は、過酷な環境で生きる後生動物の生存を支える、宿主と微生物間の相互作用が関わる生理学的機構を明らかにしたものだ。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部