台湾の陽明交通大学(NYCU)は9月18日、伝統医学研究所(Institute of Traditional Medicine:ITM)のドンフー・ツァイ(Tung-Hu Tsai)教授率いる英ケンブリッジ大学との研究チームが、新型コロナ治療薬「モルヌピラビル」が胎盤を浸透して胎児にも有効な治療濃度を達成できることを確認したと発表した。この研究成果は、Lancetの姉妹誌eBioMedicineに掲載された。
伝統医学研究所は、「モルヌピラビル」が胎盤を浸透して有効な治療濃度を達成できることを確認した
(出典:NYCU)
モルヌピラビルは、新型コロナ治療薬として米食品医薬品局(FDA)により緊急使用が許可された薬剤だが、その機序については不明な点が多い。台湾衛生福利部の新型コロナウイルス感染症の臨床管理に関する暫定ガイドラインによれば、妊婦へのモルヌピラビルの使用は、ベネフィットがリスクを上回る場合にのみ考慮すべきとされている。リスク評価を行っても、この治療薬が胎児の治療濃度に達するかどうかは全く不明である。
ツァイ教授率いる研究チームは、独自に開発したマイクロダイアリシスプローブを使用して、妊娠しているマウスの血液、胎盤、羊水、胎児から標本を採取し、モルヌピラビルとその活性代謝物の濃度を液体クロマトグラフ-タンデム質量分析計(LC-MS/MS)を用いて分析した。その結果、母親の血流中の有効代謝物の約29%が胎児に、19%が羊水に、9%が胎盤に到達することが判明した。つまり、投与量は、妊娠中の母親と胎児の両方で有効な治療濃度範囲を達成した。
この科学的発見は、新型コロナウイルスに感染した妊婦の薬物使用や、胎児の感染症を効果的に治療できるかどうかという点で、重要な参考指標になる。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部