近い出来事から過去へ、脳の段階的な遡及的学習プロセスを解明 台湾

台湾の陽明交通大学(NYCU)神経科学研究所(Institute of Neuroscience)のシージエ・リン(Shih-Chieh Lin)教授率いるチームが、脳の学習プロセスには、報酬に最も近い出来事から過去へと段階的に遡及する学習が関わっていることを解明した。11月15日付発表。この研究成果は、Nature Communicationsに掲載された。

脳は、近い記憶から学習を始める
(photo from Getty Images)

この段階的な遡及的学習戦略を検証するため、研究チームは、オスのラットを使った行動実験を行った。まず、特定の音に正しく反応すると報酬として砂糖水を与え、次に聴覚刺激を光刺激に置き換えて、ラットの行動特性を観察した。その結果、ラットは報酬に最も近い行動から学習を始め、逐次的に過去の事象を織り込んでいくことが判明した。

行動実験室でのラットの実験により、脳における段階的な遡及学習の戦略が確認された

研究チームはさらに、マイクロ電極を使ったラットの脳の電気信号を直接観察した。このアプローチにより、各段階における段階的学習が前脳基底部におけるニューロンの活動に反映されることが明らかになった。報酬予測に関連する事象に対応するニューロンは、学習時に活性化した。

この研究は、学習の漸進的性質だけでなく、最近の報酬記憶に基づいて過去の行動を遡及的に修正する脳の独特の能力を強調するものであり、前脳基底部ニューロンが報酬予測エラー信号を通じて報酬探索行動を刺激する仕組みを明らかにしている。また、前脳基底部における非コリン作動性ニューロンの役割の重要性も強調されている。

シージエ・リン(Shih-Chieh Lin)教授(左)ら研究チーム
(出典:いずれもNYCU)

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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