台湾の陽明交通大学(NYCU)医用生体工学科のユーイン・チャン(You-Yin Chen)教授率いる研究チームが、医療材料大手の米アボット(Abbott)と協力して、うつ病治療の脳深部電気刺激に使う「グラフェン神経プローブチップ」(graphene neuroprobe chips)を開発し、動物モデルで抑うつ症状の緩和効果を確認した。この研究成果は、Neurobiology of Stressに掲載された。
グラフェン神経プローブチップの脳への埋め込みシミュレーション
研究では、開発したチップをドーパミン回路の一部である側座核に埋め込み、脳深部刺激を行った。その結果、動物の運動機能の改善と抑うつ行動の低下が示されただけでなく、脳MRIを通じてドーパミン回路における機能的結合の強化が観察された。これにより、側座核を刺激することで、脳の神経栄養因子の生成が促進され、うつによって引き起こされるミトコンドリア機能不全が改善することが確認された。
チャン教授は、臨床で使われる他の刺激用電極装置と比較すると、この実験で使われたプローブチップはMRIに対応しており、3次元脳イメージングを通じて複数の脳領域への脳深部電気刺激の影響を直接的に観察することが可能だと述べた。この特徴は、治療の効果的かつ安全な評価を可能にする。
アボットが開発したうつ治療用の脳深部刺激装置は、米国で医療機器指定を受けている。同社とNYCUの共同研究は、うつ病治療のための脳深部電気刺激のメカニズムを解明し、将来の臨床治療標的について理解を深め、刺激パラメーターの最適化を図るとともに、安定した有効な治療戦略を開発することを目指している。
ユーイン・チャン(You-Yin Chen)教授(2列目中央)ら研究チーム
(出典:いずれもNYCU)
(2023年12月12日付発表)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部