これまで、このような研究は西洋人だけを対象としていた。(2024年3月15日公開)
修了学年数 (EduYears) は、さまざまな社会経済的成果との関連性の調査では重要な形質である。EduYears は行動遺伝学と関連しているが、それ以外にも認知能力のものさしとして機能し、いくつかもの心血管疾患、神経変性疾患、精神疾患と遺伝的に相関しているため、疫学や医学研究にとっても重要ある。
しかし、これまで、EduYears と健康状態との遺伝的関係を調べる研究は西洋人集団に限定されていた。このギャップを埋めるために、韓国のウォン・ホンヒ (Won Hong-hee) 教授、サムスン健康科学高等研究所 (SAIHST) のキム・ジェヨン(Kim Jae-young) 研究員、および盆唐ソウル大学病院のミョン・ウジェ (Myung Woo-jae) 教授が国際研究チームを率いて東アジア人集団を対象とした初の大規模ゲノムワイド関連研究 (GWAS) を実施した。彼らの研究成果は、Nature Human Behaviour誌に発表された。
チームは、あまり研究されていなかった東アジア人集団のEduYearsに関連する遺伝子マーカーを特定しようとしただけでなく、民族横断的メタ解析を実施してヨーロッパ系の祖先を持つ人々を対象とした以前のGWASとその結果を比較することも目的とした。
この研究では、韓国と台湾のバイオバンクから得た合計17万6,400のサンプルを分析し、その後それらをヨーロッパ系の76万6,345のサンプルと比較した。
チームは、ヨーロッパ人と同様に、東アジア人もEduYearsと高い正の遺伝的相関関係を示していることを発見した。実際、2つの集団間では、EduYearsに関連する遺伝子構造、背景、効果はかなり一致していた。集団間分析を行ったところ、この遺伝形質に強く関連する合計102のゲノム位置が特定された。
ミョン教授は「私たちの研究の重要性は、東アジア人の学歴の遺伝的構造を理解し、民族間で共有される多くの遺伝形質があることを示すことにあります」と述べ、「これらが分かれば、学歴と認知症や精神障害などのさまざまな病気との関連性を調べ、これらの病気を予防し治療する方法を特定するために使用できます」と指摘する。
これらの発見は重要ではあるが、チームは、これらの結果だけでは個人の学歴や健康状態を予測できないことを強調した。結果は状況によって異なり、遺伝的・社会的・環境的要因が関与する複雑なメカニズムの影響を受ける。
重要なことは、今回の研究で、GWASに多様性を導入することの利点が示されたことである。チームは、EduYearsに最も影響を与えそうな遺伝的変異を同定する際に、一方の集団だけに限定するのではなく、両方の集団からの結果を取り入れると、解析の精度が著しく向上することを発見した。多遺伝子スコア解析(ある形質や疾患を発症する個人の遺伝的責任を推定すること)でも、集団の多様性を考慮した方がより良い結果が得られた。
「この研究は、多様な集団に基づいた将来の遺伝子研究を促進し、教育成績と遺伝的相互作用について全般的な理解が得られるとが期待されています」とウォン教授は述べた。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部