米国の新アメリカ安全保障センター(Center for a New American Security:CNAS)は8月20日、タイ国内で続いている政治的混乱が米国との関係を難しいものにしていることを指摘する記事を公開した。
タイは長年、米国の重要な同盟国であり、両国は軍事的・経済的に強固な関係を構築することを目指してきた。しかしタイは、2014年の軍事クーデター以来、中国寄りの姿勢を強めている。この動きは複数の領域にわたっており、タイ政府は、中国の投資や観光の誘致だけでなく、両国間の軍事的結び付きも強化している。
米政府はタイを自陣営に引き戻そうと尽力しているものの、タイの最近の国内外での行動は、同国が再び西側諸国につく可能性は当分見込めないことを示唆している。
こうした中、一抹の希望となったのが昨年のタイの総選挙である。進歩的な「前進党」が下院500議席のうち312議席を獲得し、政権を担う党として国民から圧倒的信任を得た。しかし、軍の影響下で2017年に施行された憲法では、新首相は選挙で選ばれた下院と軍政府が任命した250人の上院から過半数の票を得る必要がある。前進党は連立を目指したが、13人の上院議員からの支持しか得られず、政権樹立を断念した。なお、前進党は最近、タイ憲法裁判所による解党判決を受け、党名を「人民党」に変えて新たな党首の下で再出発した。
最終的に、軍関係の政治家の協力を得て連立政権を樹立したのは、選挙で2位になった「タイ貢献党」で、不動産王のスレッタ・タビシン(Srettha Thavisin)氏が首相に就任した。しかし同氏は今年8月14日に突然、最高裁判所によって解任された。後任の首相には、タクシン・チナワット(Thaksin Shinawatra)元首相の娘であるペートンタン・チナワット(Paetongtarn Shinawatra)氏が選出された。
現状を覆し、不敬罪法(王室を侮辱した場合15年以下の禁錮に処せられる恐れがある)改正をはじめ大規模な憲法改革の実施を目指した前進党に対し、タビシン氏は、経済的な課題に政策の重点を置いた。その背景には、タイの国民一人当たりの所得が2019年の水準を回復していないことがある。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部